SMAP応援企画

□どん兵衛とあなたと私
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ゼンさんは私に箸を手渡してきた。

「目を閉じて待っていましょうか」

クスリと笑っている。

「いじわる」

「確かにいじわるかもしれません。
あなたの少し困っている時の顔を眺めると……幸せだと感じます」

「ゼンさん……」

「優衣さんは表情がコロコロ変わりますから」

「私、お揚げは噛み付く派なんです」

「では噛みついてください」

「え、え、え、でも」

「恥ずかしいですか?」

「恥ずかしいです!ああ、もう!ゼンさん、なに笑ってるんですか、お揚げをちょきちょきしてからお湯を入れてくれたらよかったのに!」

「優衣さん、言ったでしょう。
私は優衣さんの少しだけ困ってる顔が好きなんです。
さあ、お揚げをかじってください」

「……////」

「真っ赤になってますね」

「すっごくいじわる」

「いじわるです」

私はどん兵衛のお揚げをかじった。

「おいちい」

「私にはくださらないのですか」

「え」

「お揚げ」

「……(どうやって?)」

「お揚げを食べてみたいです」

「……」

どん兵衛のお揚げには私の歯型がしっかりとついている。

「これは間接お揚げになりますね」

「それを言うならか、か、か、か、か」

「“か”?なんですか?」

「か、か、かんせつ……」

「はい」

にこにことゼンさんは笑って言った。

「“かんせつ”なんですか?」

「……いじわる」

「当ててみましょう」

ゼンさんの指が私の唇をゆっくりとなぞった。

そしてその指を自分の舌に運ぶ。

「……」

「こういうことですよね、優衣さん」

「ち、違いますよ。お揚げはそんなにエッチな食べ物じゃありません!」

「じゃあ食べさせてくださいね」

(うわあああ、嵌められたー)

私はお揚げを睨んだ。

(きょ、今日もおっきいですね、どん兵衛のお揚げさん!)

私は考えに考え、お箸を使ってどん兵衛のお揚げをちょきちょきした。

「はい、あ〜ん」

ゼンさんは口を開けた。

パクッとお揚げを食べる。

「……」

ゼンさんはそっとほっぺたを手で押さえた。

「ふふ。おいしいですか、ゼンさん」

「ええ。美味しいですね、どん兵衛のお揚げ」

それから私たちはどん兵衛のお揚げをお互いに食べさせあいっこした。

「熱いですね」

「おつゆがこぼれちゃいますね」

「そろそろ麺を食べたいな……」

(はっ!)

私は内心ひるんでいた。

「ぜ、ゼンさん、オリエンスではどん兵衛の麺はす、すするんです。すするのは音が出ますが、お行儀が悪いことではないんです」

私は慌てながら説明する。
ゼンさんは微笑みながらそれを聞く。

(きっと、こんな風に、少しだけ困っている私を眺めるのが好きなのは

予定調和と諦めと
その中にある権謀術数の世界で生きてきたゼンさんにとって)

しあわせのかたち

みたいなものなんだ、と、ふと思った。


当たり前でありきたりで

いつもそこにあって

なのに失いたくない

そういう意味で

嬉しそうだったり
ちょっと困っていたり
騒いでいたりする私をゼンさんは傍で眺めてくれている。


「……私もですよ、ゼンさん」

「え?」

ゼンさんは下からすくい上げるように私を見上げる。

「なにが“私も”なんですか?」

「私もゼンさんのちょっと困ってる顔、見るのが好きです」

いつでもポーカーフェイス
絶対に自分を崩さない彼が私だけに見せる、
蕾がほころぶような、誇らしげで、そのくせはにかんでるような笑顔……それから困惑してるときの表情……

「これからもずっと大好きです。だからそばにいてくださいね。
ゼンさんは 私の世界に一つだけの花ですから」

「優衣さん」

「だからどん兵衛すすってください」

「え?」

「ゼンさんの少しだけ困ってる顔をもっともっと見たいです」

この先どうしようもなくすれ違ったりするのかな
言い争ったりするのかな


でも年に一回の年越しにはどんべいのお蕎麦を食べて
年明けにはおうどんのどん兵衛食べて

でも「食べたい」と思ったときにもどん兵衛を食べましょう。

お揚げを噛み付く私をもっと困らせてください。

長い麺をすするのをためらうあなたをもっと長く長く見せてください。

永遠じゃなくてもいい。

たったの50年一緒に……





thank you for “SMAP super manager”飯島さん

25周年……

あと、25年は一緒にいる約束ですよね。

STAY……
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