誓いのキスは突然に 円山崇生

□円山崇生センセのオマケ
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【おやつのキスは突然に】

「崇生さん!」

いつになく優衣ちゃんの声は尖っていた。

「私のおやつ、食べましたね!」

「いや」

崇生は首を咄嗟に振った。
優衣ちゃんの剣幕はおさまらなかった。

「おやつにプリン食べようと思ったのにないんです!」
「食べてないよ!」
「おやつ!」
「食べてないよ、優衣ちゃん」

崇生の声は静かになった。

「確固たる証拠がないのなら、夫を疑ってはいけないだろ、優衣ちゃん」
「むむう」
「それに」

崇生は静かに言った。

「優衣ちゃんは最近、プリンに夢中になりすぎだよ」
「そ、そんなことないもん」
「……昨日も食べてたね」

じっ、と見られ、優衣ちゃんは何故か真っ赤になり、モジモジした。

「だって最近、崇生さん、帰りが遅くて寂しいんだもん!」
「夫の不在をプリンでごまかしてはいけないだろう」
「むう」
「俺は君にとってプリン以下の存在なのかい?」
「そ、そんなことは」
「じゃあ、プリン以上なのかな?」

微笑む崇生に優衣ちゃんは小さく頷いた。

「ありがとう、優衣ちゃん。じゃあ、このプリンは俺がもらうね」
「ああああああーっ」

崇生は隠していたプリンを取り出してきた。

「ひどい!ひどいよ、崇生さん!」

「ははは。優衣ちゃん。プリンを食べたいなら、この俺を倒しにおいで」
「ええいっー!」

優衣ちゃんは崇生に殴りかかった。

「えいっ」

ぽかすか。

「えいえいっ」
「ははは」

崇生は笑いながら少しずつ後ろに下がる。

「あっ」

崇生はソファに座った。

「えいっ!」

優衣ちゃんは崇生からプリンを奪い返した。

「やった!」

真っ赤になって息を切らしている。
そしてソファに座った崇生の足の間に腰を落ち着かせ、プリンの蓋を取った。

「うっふっふっ」
「優衣ちゃん、ひとくちちょうだい?」
「だめー」
「ひとくちで良いんだけどなあ」

崇生の声は笑いがまじっていた。

後ろから優衣ちゃんを抱きすくめ、頬にキスをする。

「プリンに届かなかった」

ちゅっ。

「も、もう!私、プリン食べるんだから崇生さんはじっとしていてくださいっ」
優衣ちゃんは真剣な顔で崇生をなじる。
崇生はそんな優衣ちゃんの髪を撫でながら、ちょっとだけ待っていた。

「んふふ。最後のひとくちー♪」

あーーんっと大きな口を開けた優衣ちゃん。

「ぱくっ」

無事に食べきった満足感。

しかし崇生は、ソファの後ろからプリンを取り出していた。

「えっ」
「このプリンはね、吉祥寺の佐東洋菓子店の、行列ができる、ふるふるプリンって言ってね」

崇生は大変に良い笑みを浮かべて、足の間に挟まっている優衣ちゃんを見る。

「限定品で美味しいって評判なんだ」

「崇生しゃん!」

優衣ちゃんは興奮してしっかりと振り返った。

足の間に膝立ちをする。

「食べたいです!」
「だーめ」
「えーっ。ひとくちください!」
「だーめ」
「けち!」
「けちじゃないよ、優衣ちゃん。
男は好きな女の子には意地悪をするものなんだよ」

崇生は真顔で囁き、プリンを見せびらかす。

「ひどーいっ」

優衣ちゃんは崇生の胸を小さな手でポカポカと殴った。

「この俺を倒してプリンを奪うんだ、優衣ちゃん」
「えーっ」

優衣ちゃんは崇生の隙をついて脇にはさまった。

「こちょこちょ」
「わ、やめて、優衣ちゃん」
「こちょこちょ」
「あっはっはっはっ」

笑い転げた崇生から優衣ちゃんはプリンを取り上げた。

「んふふ♪」

嬉しそうにプリンを食べだす優衣ちゃんを眺めながら崇生は微笑む。

「ちょっとだけほしいですか、崇生さん」
「欲しいね。全部」
「欲張り!」
そう言いながら優衣ちゃんはスプーンでプリンをすくった。


「あーん」

差し出されたスプーンを片手で取り、崇生は優衣ちゃんにそっと口付ける。

「ありがとう」
「へ?」
「おいしかった」

しばらく優衣ちゃんは考えたが突然真っ赤になった。

「ば、ばかあ、崇生さんのえっちー!」
「……えっち、なのか」
「……」
「俺はすけべなのかな」
「……」
「ムッツリなのか」
「そ、そこまで言ってないです」
「じゃあすけべなのかな」
「それも言ってないです」
「じゃあ、ムッツリでもすけべでもないんだね」

崇生は、きゅっと微笑むと優衣ちゃんの頬にもう一度キスをする。

それから優衣ちゃんを抱きしめた。

「もっともっとたくさん、いろんなことをしようね、優衣ちゃん」
「はい?はいい?」

崇生は微笑む。
優衣ちゃんに言わせると、今までしでかした、あんなことやこんなことはみんな、すけべでもムッツリでもないらしい。
ということはもう少し過激でもいいということだ。

プリンを食べながら小さくなって真っ赤になっている新妻を眺めながら、崇生はこれからの夜を思うのだった。



【おやつのキスは突然に 終】
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