キミを愛す、何度でも 鳳湊平

□スイパラと湊平さん
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【スイパラと湊平さん】

「優衣。どこか行きたいところはあるか」

「特にないです、湊平さん」

「そうか。それは困るな」

湊平さんは真顔で言った。
真正面から真剣に私を覗き込み、切れ長の黒い瞳は眼光鋭い。
漆黒の艶やかな前髪は少し長くてオールバックにしている。鼻梁も整っていて、大変に涼やかな顔相をしている。

ただ……

「湊平さん……」

「なんだ」

「その真顔、本当に怖いです」

「……そうか、すまない」

湊平さんは溜息をついた。

「君が俺といて退屈なのは辛いんだ」

「退屈だなんて。
私は湊平さんといるだけで幸せです」

「そうか……」

頬を赤らめ、やや目をそらす。

(こういう時に見つめてくれた方がいいのに)

湊平さんは私より年上で……仮に「お兄さん」だとしても「年の離れた兄妹ですね」と言われてしまうだろう。
そのせいか湊平さんは私を物凄く子供扱いする。
そうして、私を甘やかすのが当たり前だと思っている。

「湊平さん」

「うむ」

真剣な顔に戻った湊平さんの眉間にはやや皺が寄っていた。

「「おじさんくさいですよ」」

私たちは同時にそう笑いあった。

「ふふ。やっぱり言われると思ってたんですね」
「君はすぐに俺をおじさん扱いするからな」
「湊平さんがいつも私を子供扱いするからです」
「仕方ないだろう。俺と君は歳が違うのだから」
「仕方なくないです……」

少し切なくなって湊平さんの指をそっととって絡めた。

その指をそのまま、湊平さんはスラックスのポケットに入れた。湊平さんの腰骨の上……布地に挟まれ、私の指と湊平さんの指がきゅっと結ばれている。

「君に久しぶりに会えた」

横顔は微笑んでいた。

「嬉しいんだ、優衣に会えて」
「湊平さん……」

白いシャツに黒いスラックス、オーソドックスでかっちりとした格好が似合う湊平さんは呉服屋の社長だ。
中学の頃、両親が諦めて店じまいをした家業を大学を卒業する前に起業し直した。
和装は衰退していると言われるが小物や和カフェなど、様々なジャンルを掘り起こし、今や鳳家は飛ぶ鳥を落とす勢いと言われている。
彼自身も若く凛々しい実業家としてメディアに出ている。
テレビや経済誌の中にいる彼は有能でしっかりしている。それなのに私といると「まるで思春期前半みたいだ」と湊平さんはぼやく。

「君は本当にむごいな」
「何がですか」
「俺の気持ちを知ってか知らずか涼しげだ」
「?」

ふと、湊平さんの眼差しが足元を見ているのに気付いた。

コルクでできたサンダルには紐があみこみになり、足首でリボン結びになっている。
少し透け感のあるレースと2枚仕立てになっているシフォンの膝丈プリーツスカート、それから脇が3枚フリルになっている白いカットソーも胸元はレースで少し透けている。

「え……嫌いですか」
「嫌いなわけがないだろう」
湊平さんは困ったように顎を人差し指で掻いた。

「君が選んだものを嫌いなわけがない」
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