SMAP応援企画

□どん兵衛とあなたと私
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【どん兵衛とゼンさんと私】

「これは……」

「え、えっと……」

私の部屋に朝の紅茶を運んでくださったゼンさんは目を見開いていた。

美しい純白のテーブルに色とりどりの花が飾られている。そこに私は、オリエンス名産「うどんどん兵衛」を置いていたのだ。

「うどんどん兵衛」とは「そばどん兵衛」と並ぶ、オリエンスの名物料理なのだが……ちょっと庶民的すぎるお料理だった。何しろお湯をかけて5分でできてしまう。

「お、オリエンスでは、どん兵衛って、よく食べるんです」

私は一生懸命言った。

(あああ、どうしよう。ノーブル城にどん兵衛持ち込んでしまった!)

「存じておりますよ、優衣さん」

だが、ゼンさんは翡翠色の瞳をゆっくりと微笑みにかえた。

「そばどん兵衛は年越しに、うどんどん兵衛は年明けにいただくのが、オリエンスの流儀だとか」

「えっ……と……」

クスリとゼンさんは微笑む。

「お湯はご用意してありますか?」

「え、いや、まだです」

「では僭越ながら私がお湯を入れてもよろしいですか?」

「え、えええ?!」

「本物は初めてです」

「どん兵衛の本物?」

「ええ。オリエンスのことを……やはりあなたを思ってオリエンスについて調べているうちに、どん兵衛について知りました。
家族揃って除夜の鐘を聞きながら、年越しに、そばどん兵衛を食べ、
初詣に行き、初日の出を見て、そして今度はうどんどん兵衛を家族揃っていただく……」

静かにお湯を沸かしているゼンさんの美しい所作にまったく隙はない。

でも私はゼンさんの過去を思い出していた。
彼が家族と暮らせたのは5歳までだと聞いたことがある。

3歳から記憶が始まったとしても2年しかないのだ。

しかも彼は内戦が続くサンクティスの王子様……。行事のたびに両親は不在だっただろう。そうなると更に家族の記憶は少ない。

「どうしました、優衣さん」

物思いにふけっているとゼンさんに話しかけられた。

「ゼンさん!」

「はい!」

「私とどん兵衛食べましょう!」

「私もいただいてよろしいのですか?」

「はい。お椀用意しますから」

「お椀は必要ないと思いますよ」

ゼンさんはどん兵衛の蓋を丁寧にめくる。長く美しい指の動きが何故か艶めいて見えた。

「あなたが私に食べさせてくだされば。お椀は必要ありません」

「え?えええ?!」

私は慌てた。

「ちょ、ちょっと待ってください。どん兵衛はお揚げがとってもジューシーなんです。おっきいんですよ!」

「おっきいですね」

ゼンさんは満面の笑みを浮かべ、お湯を注いだどん兵衛の蓋をきっちりと閉めた。

「5分待ちましょう」

ベッドに座ったまんま、この展開についていけない私の髪を彼の温かな指先が遊ぶ。

「良いですね……夜明けのどん兵衛」

「は……はい……」

(よ、夜明けのどん兵衛ってなに!)

「結婚したら、夜食にお蕎麦も食べられますね。毎晩鐘楼をついたあと、温かいお蕎麦をいただくのも良いですね」

「ふ、太りますよ!」

「大丈夫かと思います」

「ゼンさんはいっぱい食べても太らないと思いますが、私はお肉がいっぱいつきます」

「それもあなたの魅力になるでしょうね。
でも」

ゼンさんは微笑んだ。

「優衣が太れるとは思えないですね」

そっと唇がふさがれる。

「……」

どん兵衛が伸びてしまう展開にあやうく流されそうになる。が、ゼンさんは5分でアラームをかけていた。

ピピピピ……

「出来上がりましたね」

ゼンさんは嬉しそうだ。子供のような表情をしている。

「このお揚げを優衣さんが食べさせてくださるんですよね」

「うっ」
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