誓いのキスは突然に 鴻上大和

□大和とぶうこのお出かけin小さなフランス
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【優衣とお出かけ】

「きゃあああああ!ここ行きたいいいい!」

朝から優衣の大声がリビングで、した。

正確に言うと大声ではない。

多分、実際には「いいなぁ、ここ行ってみたいな?」くらいの小さな小さな呟きだ。下手すると呟いてもいない。

大和の目の前……リビングのテレビに向かって、オタマを持って、色気のないないないないエプロンをしている優衣が「おおおー」というガン見をした……その脳内の叫びを大和は勝手にキャッチした。意外と溺愛である。

「どうした」

しかし、あえて新聞越しに素っ気なく言ってみる。昔、大和は新聞を取っていなかった。家にそれほどいなかったので読むのは勤務先でよかったからだ。しかし新聞は大変良いアイテムで、新聞越しに優衣を見て喋るのはなかなか風情がある。

「ここ、良くない?大和」
「ん?」

「……」

花畑に小さなエッフェル塔がそびえたっている。その向こうに小さな回転木馬、その向こうには絶叫マシン……。

そう、そこは遊園地が無料開放している遊園地の前庭だった。

無料開放なのだが、小さなフランスなのである。
早朝からパン屋さんや小さなおみやげ屋さんが開いている。昼近くからは絵本や体験コーナー、動物ふれあいなどまでできる、市民憩いの地……にもかかわらず無料開放……にもかかわらず、遊園地の前庭という、子連れにはありがたい場所だ。

「いつか遊園地に入ろうね、お母さん」

(そんなことを俺は……言えなかったな)

大和の母親は、女手ひとつで俺を育て上げた。
父親は死んでいると言われていたので、母1人子1人だ。

しかし母は何不自由なく大和を育てた。過不足のない人だった。

一生懸命、朝から晩まで働き、たまの休みには遊びに出かけた。

そこが今、花盛りでテレビに映っている。そしてぶうこ(嫁)がオタマを持って色気のないないエプロン姿で、「いいなあー」という目をして画面を見ている。

「行くか」
「え」
「そこ。近いぞ」
「わあ。じゃあ行く!お弁当持って行く!」
「パン屋さんがあるからパン屋でいいだろ」
「パン!」

優衣の目は更に煌めきを増した。

とんこつラーメンと辛子蓮根と芋焼酎を愛する優衣だが、クロワッサンも大好物なのだ。朝はパンをかじっている。
パンをもぐもぐする優衣はかなりかわいい。
優衣は朝、パンを食べる。大和は米派なので、朝飯が2種類になる。
いつもは大和が作るが今日は珍しく優衣が朝ごはんを作ろうとしていた。が、作る前にこの番組を見てしまったのだ。

「行くか!」
「え?」
「まだ飯の支度してないなら、パンを食べに行こう。焼き立てだぞ」
「やったあ!」

優衣がぴょーんと飛んだ。いや、、全然飛んでない。が、飛ぶ勢いはあった。

急いで着替えに行く優衣。お出かけ用は可愛らしい優衣だ。しかも支度が恐ろしく早い。

「大和!できたよ!行こう!」
「おま、早すぎ!」
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