誓いのキスは突然に 鴻上大和

□どん兵衛と大和と私
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【どん兵衛と大和と私】

私は大和と体育祭の買い物に来ていた。

「体育祭といえば!」

「唐揚げだろ、卵焼きだろ、枝豆だろ」

「枝豆……」

「お前!未成年なのに飲酒するモード入ってんじゃねえぞ!」

「痛い!大和、すぐに私の頭をゴンゴンゴンゴンと!」

「うりゃ!」

「乙女にラリアートって何!?
え!い、こうしてやるー!」

私は大和の脇をくすぐった。

「やめろ、やめろ、やめてください、ぷう子、こら」

「こちょこちょこちょこちょこちょこちょ」

「やめろーーーー」

大和は身をよじった。

私が5分はいじり倒したら、息を切らして涙目になっている。

「おま……普通、女がここまでやるか?まったく、カバみたいな女だな」

「なんで、そーゆーこというかな、たかが枝豆くらいで」

「枝豆になっている。謝れ!」

私はやいやい言う大和を思いっきり無視し、カートを押す。

「ちょ、待てよ」

後ろから大和が来て私ごとカートを押した。
私の握ってるカートの持つとこに大和の手が伸びている。

「俺も押す。お前、どっかとんでもないとこ行くからな」

「えー。そういうのは大和でしょ。私はちゃんとしたものを買うからね。
んと、体育祭のお弁当といえば、おにぎり」

「肉入れろよ」

「どんだけ肉食なの?!普通たらこでしょ、明太子でしょ」

「れんこんのからしあえを握りしめるな!体育祭だぞ!腐るぞ!」

やいやい言いながらゆっくりと狭い通路を進むと。

「あ、どん兵衛!」

私はどん兵衛の棚を発見した。

「やっぱどん兵衛は関西風だよねー。はああああ。買お」

「お前なあ!」

「なあに?」

振り返ると突然大和は真っ赤になった。

「なに?ゆでたこ食べたいの?大和」

「なんでゆでたこだよっ」

「だって真っ赤だもん」

「そ、それはお前がち、近いからだろうが!離れろ!」

「えー、大和が近いんだよ。ほらー」

私はグイグイと大和を押したり引いたりした。シャツの半袖をつかんだら、いっそう赤くなった。

「ゆでたこ食べたいなら早く言ってよ。たこ売り場に行くからさー」

「ゆでたこ食いたいから赤くなる男がどこにいるんだよ!お前が近いからだよ!」

「えー、私ご時が近いと大和は赤くなるんだー」

「お、お前は」

「ん?」

「お、お前は赤くなんないのかよ」

「へ?」

「俺といて、赤くなんないのかよ!……これでも?」

大和が耳元で囁いた。

(ぎゃああああああああーっ)

「ふっ」

大和は形のいい唇をきゅっと引き上げて笑った。

「お前もたこだな」

「誰がたこ?!」

「たこちゃんぶうこだ」

「ぶうこじゃねえわ!」

「真っ赤じゃん」

「うっさい!とりゃあああああ!」

私はどん兵衛をダースでカートにつめた。

「だーっ、お前、体育祭の買い物だろうが!」

「お家に帰るまでが遠足!
お家に帰るまでが体育祭!
私は体育祭の前夜祭として、このどん兵衛を食べたいの!
後夜祭としても食べたいの!」

「ダースかよ!箱買いかよ!お前、胃腸にあやまれ!」

「んふふー。どん兵衛ー。中居さん、待っててねー。優勝はうちの赤組だよーん」

「中居?!中居って誰だよ」

「SMAPの中居さんだよ。どん兵衛のCMしてたよ。
うち、どん兵衛の中居さん人形がアラームなんだ。
朝起きたときは中居さんの声でお目覚めだから」
「は?」

「“おはよ”とか“今日遅かったね”とか“おやすみ”とか、私のアラームは中居さんだもんねっ」

私はスマホを操作した。

「ほら、大和、ちょっと電話よこしてよ」

「は?」

大和は嫌そうに私に電話した。

途端鳴り響く中居さんの声。

「“電話だよー。ったく早く出てあげなよー”」

「……ちょっとスマホよこせ、ぶうこ」

「へ」

「よこしなさい、優衣ちゃーーーーん」

「うわ、なにすんの!ちょっと!とりあげないでよ!」

「ほーら、こちょこちょー」

「ぎやあああああー、大和ーっ、こら、やめろヘンタイ!なにすんのー」

「ふんっ」

「……」
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