王子様のプロポーズ ゼン
□赤く染まった耳
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【赤くなった耳】
「優衣さん」
ゼンさんは微笑む。
背の高い彼は少し屈んで私を真正面から見つめる。
翡翠色の深い瞳が、長い睫毛の向こうで、くすぐるように揺れる。
彼の眼差しの甘さに私はたじろいで足元を揺らがせる。
めまいのような、さざ波のような感覚にいつも覆われてしまい、私は吸い寄せられたように彼を見つめるか、戸惑って視線をそらすかどちらかになってしまう。
「優衣さん」
差し出された手にはきっと磁力がある。
私の右手は、月が太陽に逆らえないようにゼンさんの掌にすっぽりとおさまった。
「どうしましたか」
隣に並んだ時、彼はこちらをすくうような眼差しで見下ろしてくる。
その甘やかな眼差しから私は目をそらした。
と、私の耳に温もりがふれた。
「真っ赤です」
(!)
ゼンさんの囁きが耳朶を喰む。
「優衣さんの耳たぶです」
かぷっ、と口に含まれていた。
私は「〜〜〜!」と声を殺し、代わりに右手にぎゅうううっと力をこめてしまった。
「ふふ」というようにゼンさんが笑い声を噛み締めている。
さりげないエスコートに何気なくSっ気が混ざっていた。
「ゼンさんって!」
私は下を向いたまま呟く。
「たまに意地悪ですよね」
「そんなことはありません」
真顔で言っているだろうその気配。なのに言葉尻に笑みがこぼれている。
「あなたに会えて嬉しくてたまらないのは確かですが」
「……」
思わず顔を上げる。
「……ゼンさんの耳もまっ……」
「真っ赤です」と言おうとした瞬間。
「……んっ……」
私の唇は、あの硬質で端正な口唇に塞がれてしまった。
手と手をつなぎあい、隣に並んで立っていた私は逃げようがない。
「…ん…くふ……っ」
ゼンさんの唇は私の下唇を甘く噛み、わずかに力を入れる。そのまま歯列を割り、舌先で私の口蓋を舐めて誘う。
「んっ……」
恥ずかしさで涙混じりになりながら、首を精一杯上げて、ゼンさんに捧げると、小さな音を何回も立て、彼は私の唇を貪った。
「んっ……んっ……」
まぶたをぎゅぅと閉じたのも敗因だ。私は彼の情熱に引き込まれてしまう。
「あっ……ゼン……っ……さ……んっ。んぅっ」
向かい合う形になり、私は彼のスーツをぎゅっと握りしめた。
彼はというと、私の右手を掴んだまま、利き手で私の顎を上げ、そのまま口づけを続けている。
恐らく妖艶で恍惚とした笑みを翡翠色の瞳にたたえている。でも目を閉じてしまった私は彼の唇に翻弄されていて、瞳を開くことはできない。