小説

□refrain
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それは良く言えば幻で、悪く言えば現実だった。
最も、事を俺がどんなに夢だと言い張っても、やはりあれは本当の事で、ならば後者の言い方の方が正しいと俺は思う。
つまり、俺は土方さんと別れたのだ。












「ひじかたー!」
透き通った幼い声が聞こえる。
暑く照りつける日光をその体一杯に浴び、少年は目の前の男の名を呼んだ。
「ンだ、総悟。」
振り返る黒い男は、如何にも鬱陶しそうにその正端な眉を潜める。
歳は十六、七位だろうか。
「ひじかた!テメェ、俺のおむすび全部食っただろ!」
「はあ?食ってねえよ」
「嘘つけ!こんな嫌がらせするのお前しかいねえ!」
「知らねーもんは知らねえ」
「テメェ!しらばっくれるつもりか!」


少年・・・・幼い俺は、土方が大嫌いだった。
俺の方が先輩なのにタメ口だし生意気だし、おまけに何度言っても俺の事を「総悟」なんて馴れ馴れしく呼んできやがる。
兎に角俺は、奴が忌々しくて仕方が無かった。





ある日俺は、近藤さんの道場に泊まることになった。
なんでも姉上に用事が出来たらしく、「いい子にしててね」とその優しい目で言われた後、その日はもう姉上は帰ってこなかった。
大好きな近藤さんと一緒に居られるのは嬉しい。
しかし、大嫌いな土方とだけは一緒にいたくない。それだけは勘弁だ。

「土方、テメェは仲間外れだ!俺は近藤さんと一緒に寝るから、テメェは一人寂しく寝てろィ」
夜、俺がそう冷たく奴に言い捨てると、奴は俺をフンと鼻で笑い好きにしろとでも言うように部屋を出ていった。
ざまあみろ!
強がってはいるけど奴は内心落ち込んでいるに違いない。
そう思い俺も奴を鼻で笑うと、近藤さんが困った様にゴホンと一つ咳払いをした。



夜、ふと目が覚める。
・・・・厠行きてえ・・。
隣でグースカ寝てる近藤さんを搖するが、案の上起きてくれない。
仕方なく一人で部屋から出ると、思いのほか外は寒く、これじゃチビっちまうと少々小走りになる。

────と。
ふと奥の部屋から声が聞こえる。
土方の声だ。
くぐもっていて何を言っているかは分からないが、確かに奴の声だった。

・・・・こんな夜中まで、一体何をやっているんだ・・
気になった俺は部屋の中を覗く事にした。
静かに、静かに土方の部屋に近づくと、それに比例する様に声も明確になっていく。

「・・・・ん、んっ・・」

危険な香りがした。
中を覗いたらいけない気がして、それでも俺は気になって仕方なかった。
一歩一歩、ゆっくりと歩いているのに、心臓はバクバクと物凄い早さで音を立てている。

「・・ぅ、っ・・ん」

襖に手を掛ける。
あともう少し、あともう少しで、見える。

「んん・・ぅ、・・そ・・ご・・」

・・・・え?
コイツは今、何て────


「・・うご・っ、そうご・・!総悟・
・・・・・・っ!」





────バン!!

勢いよく襖を開ける。


と。
そこには、自身のものを握りこんだまま、点になった目で俺を見る土方がいた。















次の日の土方は見物だった。
誰が見ても明らかに落胆しており、目の下に隈が出来ている。
心ここにあらずって感じだ。
一方で俺は、至って変わらずケロリとしていた。
そりゃそうだ。
その頃の俺はまだ十かそこらで、土方の行為が何なのかもまだ知らなかった。
でも、その日から土方が物凄い露骨に俺を避けてきやがったもんで、昨日のアレは見てはいけないものだったのだと子供ながらに何となく悟った。
それから俺は元々奴が嫌いだったから、避けられる位なら避けてやろうと土方をガン無視し始めた。
すると今度は土方の方から話しかけてきて、俺達はいつも通りに戻った。
奴を注意深く見ると、この間のアレの様に俺に熱い視線を送って何やら袴の前をモゾモゾと動かしているが、何故か俺は奴と気まずくなりたくなくて見て見ぬフリを決め込んだ。

それから二年ほどの月日が経ち、俺は十二歳になった。
多分、奴のことを「土方さん」と呼ぶ様になったのもその頃だったと思う。
自分では一人前になったつもりが、保護者二人に言わせるとまだまだ餓鬼らしくやはり扱いは変わらなかった。
それでも子供の作り方位は分かるし、昔、土方さんがしていたアレの意味も、分かる。

でも聞けなかった。
どうして俺の名前を呼びながらしていたのか。
俺をどうゆう目で見ていたのか。
はたまた今も、そうゆう事をしているのか。
考え出すと駄目だ。
そんな事を考えると、もう止まらない。
ギュッと袴の前で手を握り、ふと前を見ると、そこには土方さんが、いた。















「トシ、総悟。明日はいよいよ江戸へ出発する。今夜はしっかり寝ておくように」
はい、とだけ返事をすると、近藤さんは俺達の意を感じたのか、「ウム」と相槌を打って部屋を出ていった。
残された土方さんと俺。
何故だか急に空気が変わった様に思えて、わざとしどけなく床に寝転んでみた。
「!」
一瞬土方さんが目を見開く。
間違いない。
こいつは俺の事が好きなのだ。
だから夜な夜な俺の名前を呼びながらマスを掻き、悦に浸っているのだ。
今だって俺に悟られぬ様袴の前を手で覆っている。
いや、此処までくると無意識か。
「土方さん」
好奇心で、その妙な動きをする手を握ってみた。
ビクッと動きを止めた土方さんが、こちらを見る。

「気付いてないと思ってるんですかィ?」
「・・な・・にが・・だ」
「アンタが、俺の事考えながら一人エッチしてるの」
「!」
俺が淫語を口にすると分かり易く反応を示す土方さん。
そんな奴を見上げながら、俺は誘惑する様に微笑んで見せた。
「総・・悟」
「ねぇ、アンタ、俺の事犯して、無茶苦茶にしたいって思ってるんでしょう。土方さん。」
「・・総悟、・・俺は、俺は・・」
「何とか言いなせェよ」
「れは、俺は、お前が──────
・・・・・・・・・・・・!」
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