ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜

□罠と裏
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リーン・ラリウスは聖王祭を前にして循環パトロールをしていた。

今のところ、ブラッドの犯行予告もなければ、何も問題が起きていない平和な日が続いている。

前の自分ならそう思っていただろうが、ブラッドの団長であるクレスト・バールンと接触したり、大臣であるオガッシュのことを調べていると、今のラーナス全体が平和なのかどうかがわからなくなっている。

「また、あの男に会えば何かわかるのか?」

小さく呟くと、クレストの手の感触を思い出す。

あの時の手の冷たさが忘れられず、1日に何回も彼の顔を思い出してしまう。

騎士の仕事に支障はないが、何分気になって仕方がない。

そんなことを思いながら歩いていると、遠くに2人の男女が見える。夏なのにオレンジパーカーを着ている茶髪の青年と、赤紫色の髪を2つに結んだ青のノースリーブを着た女だった。

リーンは2人を見たことがある。

(確か、リヴァイアタイムズの新人記者だったか……)

2人に近づくと、男の方は乗り気じゃないが、女の方は買い物を楽しんでいるのがわかる。

「こんにちは、君たち、久しぶりだね?」

リーンが後ろから声をかけると、2人はビクッとして振り返る。

「確か、リーン・ラリウスさん……でしたよね?」

「覚えていてくれてうれしいよ」

「ハハハッ、それは女の騎士さんは少ないですからね」

作り笑いで言うが、本当は理由が違う。胸の大きさが印象的で覚えていたなんて言えるはずがない。

レーナはジトーッとヴァイルの方を見る。

怪しまれる前に切り抜けたいのだろうと思ったが、実際は違う。

彼女はただ、ヴァイルが自分以外の女と話しているのが気に入らないだけ。

リーンはポンッと手を叩く。

「そういえば、君らの名前を聞いてなかったな?」

「僕はヴァイル・レストールです。」

「レーナです」

2人は名前を言うと、少し世間話をしてその場を去った。

その後、ヴァイルとレーナはスーパーでシナモンとバジルを買って酒場に帰ろうと歩いていると、レーナがアスセサリー店の前に止まり、ガラスの向こうのルビーのペンダントを見ている。

「あれが欲しいの?」

ヴァイルが聞くと、レーナはぎこちなく

「いや、その……別にいい」

そう言って早足で行くのを追うヴァイル。

そんな2人を隠れながら見ている女騎士が1人。

リーンである。

別れた後からパトロールをしながらも2人を見ていた。

あの2人は何かがあると、女の勘が働いた。

すると、2人は酒場に入っていった。

リーンは目を見開き、急いで2人の後に酒場に向かった。

まだ未成年の男女が酒場にはいるなど、良からぬことに巻き込まれているに違いないと思ったのだ。

「2人とも、早まるなー!!」

酒場の扉を勢いよく開けたリーン。

次の瞬間、中はシーンっと静まり返った。

酒場に騎士が入ってきた。

それも、開店前の時間に。

それで皆危機感を感じたが、厨房からクレストが出てきて面倒臭そうな顔で言った。

「ったく、誰だ?この忙しい時に大声出してーー」

「クレスト・バールン!?」

名前が呼ばれた方を向くと、白い制服を着た巨乳の騎士が酒場に居たことに気づく。

クレストは5秒ほど思考を停止すると、大声で叫んだ。

「何で、おまえがここに居るんだよ!?」

「こっちの台詞だ、犯罪者!貴様、ブラッド以外にも悪行を働いていたとは……見損なったぞ!!」

「いやいやいや、意味わかんねーんだけど!?俺はここの店長をしているだけだ!」

お互いにぜぇはぁと言って一旦落ち着いて、クレストがリーンに5分ほど説明する。

その後、リーンはヴァイルとレーナを指さし聞いた。

「じゃあ、この2人も………?」

「俺の部下だ。店も手伝ってもらってる」

クレストとリーンの会話から、自分たちがブラッドだとばれている節がみられるので、ヴァイルが恐る恐る言った。

「あのー………クレストさん、この人は騎士ですよ?」

「ああ、知ってる。つか、戦ったことあるし」

あっさり言うクレストに、レーナが呆れた。

「あたしたちの正体をばらしてどうすんのよ!」

レーナの意見にみんな同意する。

「あー………そういうことか、こいつは大丈夫……………だよな?」

クレストが確認のためにリーンの方を振り向くと、彼女はため息をついた。

「まぁ、貴様らがただの盗賊殺人集団ではないということは、そこのアホから聞いたから。今のところは、これ以上道を外れなければ逮捕はしない。民のため、なんだろう?」

「ああ、当たり前だ」

クレストが頷いて言い、ブラッドのメンバーの方を見ると、リーンに対して疑心暗鬼の目を向けている部下たち。

スランがリーンを細目で睨んだ。

「随分と物わかりが良いんだな?ここを出た後に仲間の騎士を連れてくるんじゃないか?」

「貴様の疑いは最もだ。だが、私はラーナスの騎士ではなく、民の騎士でありたいと思っている。だから、民のために外道を殺している貴様らを、騎士としては許せないが、1人の人間としては感謝している………というのもおかしいが、ざっくり言うと、おまえたちが悪には見えないから逮捕しない、それだけだ。」

これは、今までは騎士の仕事に私情を挟むことなど全くなかったが、クレストと会ってから心境が変わり、自分なりにラーナスについて調べた結果、自分で考えて行動することを決めた彼女の答えだった。

スランは納得はしてないが、クレストを見ると引き下がり、誰にも聞かれないようにボソッと

「やはり似ているな」

と口元を緩めて呟いた。

ほかのメンバーも警戒を解いた。

何故か、彼女の言葉は信じて良いと思えたからだ。

そして、町の飾り付けの手伝いをしていたガウナーとカゲロウが帰ってくると、リーンを見て驚くも、クレストの説得で戦闘にはならなかった。
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