ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜

□その物たちの名は
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夜になると、お客さんが大勢入ってきて、店の中はスランが料理を作って、ガウナーは酒を入れて客に出して、レーナとマキは接客しての大忙しだった。クレストが居ないことをスランに聞いてみても「あいつは少し用事だ」と呆れ口調で言っていた。

ヴァイルは客用の椅子に座りながら、皆の行動と客を見ていると、帽子とサングラスをしたお客が料理を食べたのに代金を払わずに店を出たのを見て、ヴァイルは急いで追いかける。

追いつくと、ヴァイルはお客に向かって息を切らしながら言った。

「あの!・・・・・代金・・・・・払ってない・・・・ですよね?」

サングラスの男が振り返る。

「え?だから、何?」

平然とした顔で言ってきて、ヴァイルは息を整えると、相手を睨んだ。

「犯罪ですよ?わかってますよね?」

犯罪と言われても男の表情は変わらない。

「犯罪ね〜、だけど、見ていたのは君だけだったみたいだし、ここで君を潰せば何もなかったことになる、君は見るからに弱そうだからね?」

不敵な笑みになり、かかってこいと言うように手でこいこいと手招きしてきて、ヴァイルは拳を握って相手に向かって走って行くと、走ると同時に強い疾風と黒い軌跡が現れた。

「嘗めるな!!」

目で追いつけないほどの速さでサングラスの男の顔面を殴った。

男は頬を押さえて立ち上がって、反撃をしてくると思ったら、腹を抱えて笑い始めた。

「アーハハハッ、ちょっと・・・・君のことを誤解していたよ、ヴァイル君」

帽子とサングラスを取ると、金髪の髪と赤い目が表れた、男の正体はクレストだった。

ヴァイルは驚愕の顔をして、一瞬何がどうしてこうなったのかがわからなかったが、とりあえず土下座した。

「すいません!!クレストさんだなんてわからなくて、本当にすいません!!」

クレストはヴァイルの肩に手を置くと、笑顔を向けてきた。

「あー、安心して?怒ってないし、ちょっと、君を試しただけ。君は見事合格だよ?」

ヴァイルはホッとしながら、耳に入ってきた合格と言う単語が引っかかって聞いた。

「合格って・・・・一体何の試験だったんですか?」

クレストは人刺し指を口に当てた。

「秘密、あと少ししたらわかるよ?」

そう言うと、クレストは店の方向に歩いて行った。

ヴァイルも店に戻っていくと、お客さんはもう居なくて閉店していた、店に入るとレーナに怒られて、事情を説明すると、クレスト以外の4人は驚いてクレストを見るも、クレストは無視して二階に上がっていった。

         *

クレストが自室に戻ると、大きな机に椅子があり、ソファーと本棚もあり、奥にはベッドがある。

クレストはソファーに寝っ転がると、ヴァイルのことを考えていた、ヴァイルの走るスピードと拳の威力が忘れられなくて、頬に手が触れる。

「ヴァイル・レストール・・・・・とんだ拾い物かもしれないな・・・・・」

そんなことを呟いていると、扉をノックをする音が聞こえて「どうぞー」と言うと、扉が開いて、怪訝な顔をしたスランが入ってきた。

「おー、どうした?そんな怖い顔をして」

クレストは陽気な顔で和ませようとしたができなかった、スランはそれだけ真剣らしい。

「おまえ、どういうつもりだ?あんな青年を仕事に使うつもりか?何を考えてる?」

クレストは一瞬、ニヤッと笑った。

「・・・・・・なぁ、スラン、ちょっと聞いてくれるか?」

クレストは先程のことで、ヴァイルの速さと力についての感想を言ってみたら、スランは少し考える様子を見せた。

「あのぼったくりの情報屋はどこまでの情報を掴んだんだ?」

聞いてみると、クレストは手を上に上げてた。

「それが、彼には調べさせてもらったと言っておきながら、ここ1年くらいの彼の素性しかわからない。ヴァイル・レストール、年齢は17歳、親も不明、住み家は一週間前に追い出された、持ち金は5000円、街のみんなは彼のことは良い鴨だと思っているという事しかわからなかった。」

「ここは世界でも有数の情報都市だぞ?それでも、それだけしかないのか?」

そう、この彼らの住んでいる国ワーラスはリヴァイラスと言う都市が在り、世界の情報社会の中心である首都である。

情報と言う点では、表社会でも裏社会でもどんな情報も入ってきて、その情報を売ったり買ったりして過ごす人もいる。

「本当に謎の一言だよねー・・・・・ヴァイル君って」

その顔はおもちゃを見つけた子供のようだった。

スランは呆れて、ほかの話題に移そうと、もう一度真剣な表情になる。
        ・・
「それで、今回の仕事の内容は?何時決行するんだ?」

クレストは、ポケットのメモ帳を開き言った。

「そうだな・・・・・二日後だ」

二人の間に沈黙が走り、スランは部屋を出た。


        *

次の朝、ヴァイルはガウナーと共に、夜のお客備えて買い出しに出ていた、何でも、儲かるは儲かるが、出費も多いのでプラマイは0らしい。

「えーっと、後買うのは豚肉とジャガイモと・・・」

ヴァイルがメモ書きを見ながら買った物を持って市場を歩いていると、前を歩いていたガウナーが心配そう

「前を向いて歩いてないと、はぐれっちまうぞ?」

と言って来たので、前を向いて歩く、すると、電気屋のテレビでとあるニュースが流れているのが見えた。

『今日の今朝方に、謎の犯行予告の書いてある手紙がヤーガ・クラーク氏の自宅に送られてきました。その手紙には、明日の午後10時に貴様の命を頂きに参上するという内容で、この手紙の封筒の色が赤であったということから、またもブラッドの予告であると警察は動いています。』

テレビを見て立ち止まってしまい、ガウナーに頭を軽くチョップされてしまい、頭を抑えてガウナーに着いて行く。

「ガウナーさん、ブラッドって何ですか?」

ガウナーは少し間を置いてから説明した。

「まぁ、簡単に言うと殺人集団だ。一か月に一回は大富豪とか貴族の家に犯行予告を出して、その予告通りに犯行を実行する。警察は一度も組織を止めることはできず、かれこれ標的は30人は殺されてるんだ。その護衛も含めると500は超えてるぜ?」

説明を聞いていると、ヴァイルは身震いをする。そんなヴァイルを見てガウナーは背中を叩いた。

「大丈夫だ!狙われるのは金持ちだけだからな、俺らみたいな平民は萱の外さ」

笑って言ってくれたため、ヴァイルもハハハッと軽く笑って返した。

         *

ヴァイルが買い物を済ませて店に戻ると、店はまだ外が明るいのに皆せかせかと行動している。

夜に体力残しておけば良いのにと思いながら、自分も何か手伝えることがないか探していると、酒の樽が3個ほど店の前に置いてあったので、奥に運ぼうと持ち上げると、ガサガサっといかにも液体ではない音がして、下に置いて、樽を開けようとする。

「ごら〜!!そこのヘタレ!!何樽に触ってんのよ!触れるな!近づくな!離れろ〜!!」

レーナが怒ってこちらに近づいてきたヴァイルを樽から離すと自分が持って行くと言って樽を持って店の奥に行った。

(どういうことだろう、あの中は酒じゃなかった・・・・・何か、金属のような物が擦り合ったような・・・・)

「ヴァイルちゃーん!ちょっと、こっちの下準備手伝ってー!」

ヴァイルが不審に思ってレーナを追おうとすると、マキが呼んだのでそっちに向かった。

「マキさん、樽の中って普通何入れます?」

料理の具材を切ったり、お湯を鍋に入れたりしながら、ヴァイルはマキに聞いてみる。ちなみに、マキは包丁を研いでいる。

「ん〜?樽の中?う〜ん、酒とかかな〜、後は漬物とか?」

研ぎながら答えたマキに、ヴァイルは先程のことを話すと、マキの動きが一瞬止まったが、また普通に戻った。

「あのさー、君はそれ以上首を突っ込まないほうが良いよ?少なくとも今は」

声はそのままだが、どこか暗い顔で言ったマキを見て、ヴァイルは苦笑してた。

「首を突っ込むって、そんな危ないことじゃないでしょう?命を落とす訳じゃあるまいし――」

言い終る瞬間に目の前に包丁が飛んできて、反射で後ろに仰け反ったら、転んでしまった。

「ちょ、ちょっとマキさん!何のつもりで」

マキの投げた包丁は、ぶら下がっていた子豚に刺さっていた。マキは包丁を子豚から抜いてヴァイルに向ける。

「ヴァイルちゃん、命ってそんな安全な物じゃないんだよ?この肉になった動物だって、まさか自分の成れの果てが肉になって人間の胃袋に入るなんて思ってなかったろうし、昨日死んだ人たちだって、寿命で死んだんじゃなくて、事故とか殺されて死んだんなら、それを死ぬ瞬間まで予想なんてしない・・・・・現にヴァイルちゃんだって、うちが包丁投げるまで恐怖も感じなかったでしょう?何時死ぬかなんて生きている者にはわからないんだよ、だから・・・・・」

そこまで言ってから、さっきとは裏腹に明るい顔で言った。

「命は大切にしよ?」

ヴァイルは恐怖を覚えて、はいっという返事しかできなかった。

         *

その夜、店の中は昨日以上にお客さんが多かった、今日は料理人として参加しているクレストに聞いてみると明日は休業日にするらしく、それを聞いたお客さんがゾロゾロと入ってきたのだろうと言った。

ヴァイルは接客として参加すると、お客さんの顔と頼んできたメニューをメモに書いて、クレストとスランのどちらかに渡すということを何往復もしていた。

昨日とは比べ物にならない客の量に、へとへとになりながら接客をしていると、レーナからは
睨まれて「邪魔!」と言われ、マキからは苦笑いで「ちょっと休んだら?」と言われる始末、初日からこれはさすがにきつい・・・・・・。

「ちょっとそこの若僧、新入りかい?」

近くに居た老人の客に声をかけられ、ヴァイルははいっと頷いた。

「クレストの小僧はどこにいるかの?」

聞かれてヴァイルは調理場の方を指すと、老人は了承して、ヴァイルに話し相手になってくれと頼んだ。マキから休めと言われたため、少しくらいならと思って、老人の向かいのテーブルの椅子に座った。

「名前はなんというんじゃ?」

「ヴァイル・レストールです」

「そうか、わしはウカバ・ガンタじゃ。ここの常連だから、顔は嫌でも覚えるだろうさ」

笑いながら自己紹介してくれた老人に「そうですか」と言うとこちらも笑った。

「ここはな?最初はもっと店員も居ったんじゃが、もう少なくなってのー・・・・・おまえさんが入ってきてくれて、助かっとると思っているのはあの5人全員だと思うぞ?頑張れよ」

ヴァイルはそう言われても、俄かには信じられなくて、レーナの自分への態度や、マキの先程の包丁の件について話した。

「それはおまえさん、レーナはただの照れ隠しだよ。あの嬢ちゃんは若僧の前に入ってきたからな、先輩ってことを意識してるんだと思うぜ?マキはなー・・・・女のプライベートに土足で入るなって言う警告じゃねーか?」

ウカバの言う事を聞いていると、そう感じなくもないと思った。それから、スランとガウナーのことも話した。スランは自分のことを受け入れてはいるが素気なく、ガウナーは朝から自分のことをやたらと叩いてくるということを。

「スランはいつも新入りが入ってくるとそんな感じだ、素気ないが段々と打ち解けてくるはずだぜ?ガウナーは弟分ができた気分なんじゃねーか?嬉しいってことだよ」

プラス思考の老人の言う事に信憑性を感じてきて、ヴァイルはもう休んではいられないと思った。

「あの、すいません、仕事に戻っても良いですか?頑張りたいんです、皆さんの期待を裏切りたくないから」

「おう、行って来い!ヴァイル!」

親指を立てて片目を閉じてウインクをすると、ヴァイルは頭を下げて、接客に戻る。

ヴァイルが離れていくと、老人はぽつりと呟いた。

「これは・・・・・歴代の中でもズバ抜けた奴だぜ・・・・・クレスト」

      *

店はやっと閉店を迎え、店員たちは後片付けをしたり、掃除をしたりしていた。

テーブルを拭いていたヴァイルにマキが近づいてきた。

「前半はどうかと思ったけど、後半は頑張っていたねヴァイルちゃん、別人に見えたけど、何かあった?」

マキの言葉に少し照れながら、ウカバのことを話すと、マキは少し固まって、その後にヴァイルの両肩を掴んで
きた。

「あの爺さん、何か変なこと言ってなかったか!?」

目がマジになっていて、ヴァイルは首を激しく横に振ったら、手を肩から離した。

「あの爺さんはクレスト以外は相手をしたら駄目だよ、何考えてるかわからないんだから・・・・」

溜め息をついて、ヴァイルに忠告すると、自分の掃除に戻った。

「そんなに危険な人には見えなかったけどなー・・・・・」

誰にも聞かれないように呟いたが、後ろから頭をバシッと叩かれて、ガウナーかと思って後ろを振り向くとレーナだった。

「あんたねー、あのお爺様の恐ろしさを知ったら、今の言葉前言撤回するわよ、絶対!」

レーナは少しビクビクした様子で言ってくる。よほど嫌なことが在ったみたいだ。追及はせずに、相づちだけをして掃除に戻る。

「ちょっと、あんた張り切り過ぎじゃない?凄い汗よ?」

そう言われると、ヴァイルは顔の汗を手で拭った。

「そんなに張り切ってないよ、レーナとマキさんに比べたらね?」

微笑んで言うと、レーナがフンッとそっぽ向くと、ポケットからハンカチを取って、ヴァイルの額の汗を拭いた。

「勘違いしないでよね?床掃除したのに、あんたの汗でまた汚れたらやり直しなんだから」

目は合わせず、少し頬を染めて言った。

ヴァイルはウカバの言ったことを思い出して、少し笑うと言った。

「ありがとうございます、レーナ先輩」

先輩と言われたレーナは耳まで赤くなって、ヴァイルの腹に拳を入れると

「ちょ、調子に乗らないでよ!!このヘタレ!!」

と言って、速足で2階に上がっていった。

ヴァイルはしばらく腹を抑えると、すぐに掃除を終わらせて2階の自室に戻っていった。

この次の日、ヴァイルが自分の運命を知ることになるとは、誰も知る由もなかった。
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