ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜
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男は目を覚ます。
暗い空間の中で、彼は自分が死んだのだと思った。
視界はボヤけ、手足も動かない。
ーーー小僧。まだおまえは死んではいない。瀕死の重症と言うほどではないが、何分オーラが足りない。おまえのオーラを回復させるため、おまえの………を、封………させ………。
途中から意識が薄れていく。
男はそのまま、闇の中に落ちていった。
次に目が覚めたときは、体は深々のベッドに寝ていた。
辺りを見るが、視界は白く、物の輪郭しかわからない。
扉が開く音がして、そちらの方を向くと、女の声が聞こえた。
「目が覚めたか。気分はどうだ?レイブン」
*
聖王祭が恐怖で終わったあの日から半年が経ち、冬になったワーラス。その頃にはフェアリー・ティアは活動を再開していた。
「カルボナーラとコンソメスープが注文されました、お願いしまーす」
長かった灰色の髪を切ってショートカットになったグレースは、厨房にメモを渡すとまた接客に戻る。
「はいよー、了解」
露出の多かった服を控えてセーターを着ていたマキは返事をしてフライパンで炒めものをする。
「ホワイト、ブラック、この皿を中央のテーブルに持っていってくれ。」
「「はいはーい」」
見た目も心も変わって変わってないガウナーは、ハンバーグの皿を台に置いて二人を呼ぶと、双子は返事をして皿を持っていった。
ホワイトは髪をミディアムにして花柄の髪止めをし、ブラックは髪を伸ばして右目を隠すようにしている。
髪を肩まで伸ばしたカゲロウもここ数ヵ月でやっと接客に慣れたのか、ぎこちないながらもグレースの見よう見まねでやっている。
ほとんどの者はあの日から見た目が変わった。
昼に行動したこともあってか、ばれないとも限らないので思いきったらしい。
皆、クレストとヴァイル、スランが居ないことに心を痛めているが、前に進もうと努力している。
だが、この中には1人、前に進めない者もいる。
レーナ・イスタルト。
彼女はあの日から一週間はから元気で頑張っていたが、今は現実に耐えきれなくて部屋に引きこもった状態にある。
店が終わると、マキがサンドイッチを持ってレーナの部屋に行った。
「レーナ、入るよ」
そう言ってドアを開けると、ベッドのシーツにくるまった、髪型が乱れたレーナが居た。
「体調はどう?」
「よくも悪くもない………」
マキが聞けば寝たままの状態で言うレーナ。
「ウカバおじ様からは?そろそろ半年だし、情報の1つでも入ったんじゃない?」
「………いや、クレストとヴァイルとスランについては………何も」
マキが辛そうな顔で言うも、こちらを向かないレーナにはそれはわからない。
「明日には、もう動けると思うから………迷惑かけて、ごめん」
マキは首を横に振ると、お休みと言って部屋を出た。
レーナは寝たままの状態で1つのヘアゴムを握ると、何度目かわからない涙が流れ、呟いた。
「嘘つき………ヴァイルの………嘘つき………!!」
今すぐに会いたい愛しい人の名前が口から出る。
必ず戻ると約束した。
自分を守ると約束した。
だけど、今は彼は居ない。
それが、彼女の心を想像以上に傷付けた。