ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜

□罠と裏
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リヴァイラスでは、もうそろそろで年に一回の祭り、聖王祭と言う祭りが開かれる。

フェアリー・ティアでは、客足を延ばすために聖王祭の期間限定でのメニューを出すらしく、厨房でクレストとスランとマキがアイデアを出しては実際に作ってみるというのを繰り返している。

ガウナーと新入りのカゲロウは町の飾り付けを手伝っていて忙しそう。

そしてヴァイルたち、ヘイナに修行に無断で行った5人はと言うと・・・

「荷物が重いー、腕が壊れるー」

夜の開店準備に追われていた。

ヴァイルは今、腕や足、顔に絆創膏や包帯をしている状態である。それはこの前の聖王騎士団12使徒との戦闘でついた傷で、まだ完治はしてはいないのだが、無断で店を休んだのは事実なので、罰として聖王祭までの5日間を5人だけで店を開くことになった。

ヴァイルは材料の入った樽を運び終わると、溜め息をついた。

「こら、そこ!一瞬でも休憩しないで、次の仕事に移る!」

レーナがグラスを片手にヴァイルをビシッと指さして言う。

今、店の準備はヴァイルとレーナだけでやっており、グレースたち3人は酒場に足りない物を買いに行っている。

その時、何故かニヤニヤしながら出ていった3人に、ヴァイルは疑問しか浮かばなかったが、レーナは頬を赤くして「はめられたー………」と小さい声で呟いたのが聞こえたが、何のことか聞けるオーラではなかったので、聞こえてない風を装った。

そして今、夜に備えて掃除をしたり洗い物をしたりと二人で忙しくしていると、クレストたちが厨房から出てきた。

「悪いな、二人とも。厨房空いたから、下準備始めても良いぞ」

「わかりました。メニューのアイデアはどうですか?」

ヴァイルが聞くと、クレストは苦笑い、スランは苦い顔、マキは目をそらし一斉に言った。

「「「全く、うまくいってない!」」」

「えー………」

ヴァイルが半目になって店長であるクレストを見ると、クレストはスランを指さした。

「いやいや、最初は上手くいってたんだぞ?けど、スランが何か足りないとか言い出して、塩と砂糖を間違えて入れたから、変な味になってだな!?」

「おい、元はと言えば、マキが砂糖の器と塩の器を間違えて補充したのが問題だろ!」

「それを言い出したら、塩のブランドと砂糖のブランドを勝手に変えたクレストが、それをうちらに言わなかったから悪いんじゃないの!?そのせいで、どっちが塩でどっちが砂糖かわかんなくなったんだから!」

3人の罪の擦り付けあいが始まり、苦笑いするヴァイルは、レーナに耳を 引っ張られて厨房に連れてこられた。

「夜まで時間ないんだから、あの3人の大人げない会話を見てる暇はないの」

「ごめんごめん」

早速2人で料理の下準備を始めると、ヴァイルはレーナの包丁の使い方を見ていた。

「レーナ、包丁の使い方上手になったね?」

「え?そう………?」

「うん、ニンジンの角とかきれいになってる」

彼女の切ったニンジンを見て言うと、レーナは照れ隠しにフンッとそっぽを向いた。

「まぁ、教えてもらったことはちゃんと覚えるわよ」

「あー、最初に僕がレーナの仕込みを手伝った時か、随分昔に感じるなー、ちょっと前のことなのに」

手元を見て、じゃがいもを切りながら言ったヴァイル。

すると、店の扉が開いて、ブラックとホワイトが「ただいまー」と言ったのが聞こえた。

グレースたちが帰ってきたのだと分かると、ヴァイルはレーナに「ちょっとごめん」と言って、グレースたちの元に行くと、グレースの持っていた荷物で重そうだったので、それを厨房に運んだ。

その光景にレーナはムーッと目を細めながら見る。

「時間がないって言ってるのに」

その呟きは半分は本音だった。だが、もう半分はヤキモチだった。

レーナの目線に気づき、グレースが厨房に入ると、彼女に近づいて耳元に顔を近づけていった。

「ヴァイルくんの名前は呼べた?」

「………まだ、呼べてない」

落ち込んでボソッと小さい声で言うと、グレースはわざとらしく何かを思い出したように言った。

「あー!ごめんなさい。クレストさんに頼まれてたシナモンとバジルを買ってくるの忘れちゃったわー」

わざとらしく言うグレースに合わせて、ホワイトも言った。

「そうだったー、ごめんねー。店長ー」

3人の罪の擦り付けあいはまだ続いていたが、グレースとホワイトの言葉が聞こえて、クレストが疑問に思った。

「俺そんなことーー」

「言いましたよね〜?クレストさん」

クレストの言葉を遮って、グレースは満面の笑顔で言ったが、その奥の瞳は空気を読めと訴えており、クレストは冷や汗をかくと言った。

「あ、あー、言ったな、うん、言った。シナモンとバジル、新作メニューに使うから欲しいなー」

「え?でも、さっきうまくいってないって……」

「ヴァイルー?細かいことは気にかするなー?頼むから、レーナと一緒に買ってきてー!」

クレストは満面の作り笑顔で言った。

ここでどうにかしないと殺される。

グレースの笑みからそんな恐怖を感じた。

「わかりました………けど、レーナは厨房に居ても」

「あたしもちょっと買い物したいって思ってたのよねー!一緒に行きたいなー!」

突然言い出したレーナに一瞬狼狽え、半目で彼女が先程言っていた言葉を復唱した。

「夜まで時間ないよね?」

「そ、そんなことは気にするな!俺たちも必要最低限は手伝うから!」

クレストは必死になって言った。

スランもマキも激しくコクコクと頷く。

「え!?でも、そしたら罰にならないんじゃ」

「もう、つべこべ言わずに行くわよ!」

レーナが痺れを切らしてヴァイルの手を引っ張っていって酒場を出た。

グレースは満面の笑みのままクレストを見ると

「ご協力ありがとうございます」

と一礼して言った。

この場に居る全員は思った。

グレースは絶対に敵に回さない方が良いと。

あの笑みはマジで怖い!
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