ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜
□復讐者と道化師
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これは昔の話、ある少女が絶望と恐怖、憎悪を抱える前のお話。
ある日、その村はいつもの通り平和そのものだった。
人々は明るく、活気にあふれ、少女もそんな村の皆が好きだった。
少女は、その日は川辺でたった一人で遊んでいた。
そして、村に帰ると、みんな地面に血を流して倒れていた。
たった一人立っていたのは、眼帯をつけた、二丁拳銃を持った血まみれの女だけだった。
*
月日と言う物は過ぎるのが早いもので、ブラッドに入って最初の夏が来る。
みんな半袖で通気性を重視した服を着ているが、ヴァイルとクレストは長袖を着ていて暑そうに夜に備えて店の準備をしている、吸血鬼に日の光は強烈なのだ。
ここはフェアリー・ティアと言う酒場で、殺人組織ブラッドの集まり場でもある。
普段は酒場として運営していて、月に一回だけ、貴族の家を襲撃している。
理由は、世界の裏の王を見つけ出して倒し、世界に本当の意味で平和にするためだ。
「ヴァイルちゃん、ちょっと、買い出しに行ってきてくれる?」
マキが厨房で材料の点検をしながらヴァイルを呼んで頼みごとをすると、ヴァイルは頷いて
「何を買ってきますか?肉と魚なら足りてると思うんですけど?」
ざっと見て言うと、マキがう〜んと呻きながら
「この魚が何か新鮮さがないんだよね、いつも買っているところから貰ったんだけど・・・・・だから、お願い、この数の分だけ買ってきて?」
魚の数は50匹だったため、苦笑いしながら
「誰か連れて行って良いですか?この数はちょっと、骨が折れそうで・・・・・」
マキは溜め息をつきながら店の中を見回して
「ブラックとホワイトが暇そうにしてるから、連れて行って良いんじゃない?」
「わかりました」
ヴァイルは返事をしてブラックとホワイトの元に行くと、二人は掃除が終わってしりとりをして遊んでいた。
「おーい、ちょっと、買い出し手伝ってくれる?」
ヴァイルが声をかけても返事はない、暇つぶしとはいえ、しりとりに集中しているのだ。
ブラックが、「あ」と何回か言って
「あいのて!」
「また、て?う〜ん・・・・・・・・テントウムシ!」
声が聞こえてないため、ヴァイルは二人の間に割って入り
「はい、新聞。「ん」がついたからしりとり終わり、買い出し手伝って?暇でしょ?」
割って入って終わらせたため二人してブーと言って細目で見てきて
「まぁ、良いけどさ?暇つぶしだったから、でも、声かけてくれても良いじゃん?わざわざ、割って入って終わらせなくてもさー?」
「そうそう、これだからヴァイルは駄目なんだよ?常識って言葉知ってる?」
二人の言葉にムカッとしつつも、抑えて、頑張って笑って
「ご、ごめんね?だけど、一回は声かけたんだよ?」
そう言っても中々納得してもらえず、仕方なく
「わかった、帰りに二人の大好きなチョコレート買ってあげるから、許して?」
チョコという単語に耳がピクピクと反応し、一瞬にして態度を変えて
「しょうがないな〜、行きましょう!」
「チョコだー!ばんざーい!!」
ヴァイルは溜め息をついて、二人と一緒に店を出た。
*
市場に行けば、昼なので人がいっぱいで賑わっている。
3人は人混みに飲まれながらなんとか魚屋に来ると、メモに書いた魚を買い、次にチョコレートを買おうとスーパーに行こうとしてもまたこの人込みの中に入るような勇気はヴァイルにはなく、どうしようかと思って頭をかくと
「お困りのようだね?手伝って揚げましょうか?」
すぐ傍から声が聞こえて、その方を向くと白いコートに身を包んでシルクハットを被った青髪の男が立っていた。
「あの・・・・・・・あなたは?」
ヴァイルは突然のことだったため、何と言って良いかわからず、聞いてしまい。
茶髪の青年の両隣りに居る双子は警戒するような目線を男に向けて。
「あー、私の名前はジャストル・クウナ。・・・・・あなたがたと同類のものですよ?」
3人は一瞬で背筋が凍る思いがした。
確かに、マキがこの前の闘技大会でホワイトたちは魔物だとわかったように、自分もバレる可能性はあると思った。
だが、普通の人間の態度をしていたはずなのにバレたことが彼らに恐怖を与えた。
「とりあえず・・・・・・・この人込みから出ましょうか?」
不気味なコートに身を包んだ男は、微笑んで言って、人混みの中に入るとヴァイルたちも続き、人々は海が割れたかのように自分たちを遠ざけた。
「あの・・・・・・あなたは一体・・・・・どうして僕たちのことがわかったんですか?」
ヴァイルが、まず最初に聞かなければならないことを聞いてはジャストルは薄く微笑んで言った。
「魔物には、魔物にしかわからない雰囲気、波長が在ります。それを感じ取っただけですよ?」
彼の一言に納得がいくと、折角人込みから抜けられたので、二人のチョコをスーパーで買い、ジャストルを連れてフェアリー・ティアに帰った。
*
帰った後は、ジャストルのことをわかる範囲でみんなに説明すると、スランが半目でジャストルを睨み一言
「まず最初に、俺たちの同類と言うのなら種族と能力を教えてもらおうか?」
ジャストルは首を横振ると平然と
「私は見知らぬ地に1人で来たのです。これまで人を信じて襲われたことだってありました。なのでとても臆病な性格になってしまいましてね?ですから、私のことについて話すのはお断りさせていただきます。」
若干演技しているように言って、スランの様子を見る。
スランは溜め息をつき
「そうか、それはすまなかったな?」
と一旦引き下がった。
ジャストルは手をパンッと叩くとある提案をしてきた。
「そうですね。では、私の臆病な性格を直すために、貴方がたから自己紹介をしてもらえますでしょうか?そうすれば、私も話せるかもしれません」
皆は一瞬考えたが、相手が魔物なら人間にばらすことはないだろうと承諾し、スランから自己紹介をして、終わるとジャストルは意外そうな顔をした。
「ほー、結構レアな魔物が居るのですね?ちなみに、私は死神です。どうぞ、宜しく」
ジャストルが華麗にお辞儀をすると、みんなは唖然として、一斉に
「「「死神!?」」」
目を見開いくと彼をジロジロ見てみるが、よくわからない。
死神のイメージは鎌を持っていて、黒いフードを被っている骸骨だったため、現実を見て幻滅してしまったのだ。
そんなみんなの様子を見て面白そうに笑顔で言った。
「あー、よく言われるんですよ?イメージと違うとか、本当に死神?って。でも、これが現実なので受け入れていただくと助かります。」
ジャストルの言葉を渋々受け止める。
そして、その後はジャストルの旅の話や、今まで会った魔物の話を聞かせてもらった。
*
ここはラーナスの中心都市ラーファルにある、騎士の頂に居る者のみが入ることを許される聖城ラグナ。
聖王騎士団12使徒と、10階以上の騎士がラーナスの頂点、聖王を守るために配備されている。
ラグナの最上階の廊下に、誰も寄せ付けない威圧感を放ちながら聖王の居られる王宮に向かう赤髪の女が一人。
彼女の名はウルナス・ターナ、聖王騎士団12使徒の1人である。
12使徒の中では中の上の実力だが、銃の腕で彼女の右に出る者はいないと言われている。左右の腰に付けている銃は、右は黒で左に白である。これは聖具と呼ばれる武器の一つで、名をジェミニレンナーと言う。
王宮に着けば扉を開けお辞儀をし
「ウルナスです、入らせていただきます。」
と言えば部屋に入る。
彼女の目の前には70代の老人が豪華な椅子に腰をかけて座っている。
彼の名はカラドフ・ウルーフ・ラーナス。
この国の現国王である。
体中皺だらけで指には宝石を付けた指輪を左右の手にそれぞれ3個、人差し指から薬指に付けている。
「よくぞ来てくれた、ウルナスよ。此度の東方のテロ制圧ご苦労であった。」
王はまず労いの言葉を微笑んでかける。彼女はもう一度一礼した。
「王からお言葉をかけられるとはありがたき幸せでございます。それで、私をお呼びになったのは、労いをするためだけでございましょうか?」
彼女が少し恐縮気味に聞けば、王は唸りながら椅子に体重を乗せた。
「いや、そなたを呼んだのは一つ用件があってのことだ・・・・・ブラッドと呼ばれる組織を知っておるか?」
王が聞けば、彼女は目を細めた。
「最近何度か噂を聞く組織でございますね?存じております。」
「その通りだ。奴らは貴族ばかりを狙う。余を慕ってくれていた者も奴らにどれだけ殺されたことか。」
王は言い終ると同時に溜め息を漏らした。
「そなたには、ある者を護衛してもらいたい。その者の名はハウダーと言う」
名を告げられると、ウルナスは心内で悪態をついたが、頭を下げ「承知いたしました。」と受諾した。
(私があの変態科学者の護衛をすることになろうとはな。)
*
フェアリー・ティアではジャストルの話を聞き終ると、みんなは夜の開店準備をし、ジャストルはテーブルで紅茶を飲んでいた。
ジャストルの様子をグラスを磨きながら見る女が一人。マキである。
彼女の死神に対する視線は、警戒心を隠していない感じだった。
「そんな警戒心剥き出しで見つめられても、反応に困るのですが?」
苦笑いで言ってくる彼。彼は先程から笑みの顔のままだ。
まるで笑顔と言う仮面をずっと被っているように。
「私はどうしてもあんたが信用できないんだよね。ずっと笑顔の奴って、見ていて気持ち悪くなる。」
睨む視線のまま言い、角が頭から剥き出しになりかける。
そんな彼女を見て、笑顔の男は真顔になった。
「笑顔の方が、親しくなりやすいと言っていた知り合いが居てね?それを実行してただけさ」
「その知り合いも、魔物なの?」
質問には頷いたが、それ以降は話そうとしない。
「マキさんは、どうしてクレストさんに付いているのですか?貴女の鬼の力なら、一人でも生きていけるでしょう?」
ジャストルの質問に対し、マキは少し暗い表情になるが、すぐに平常になり
「初対面の男に話すようなことじゃないわよ。けど、そうね・・・・簡単に言うなら、クレストはあたしの命の恩人なのよ。だから、彼に付いていってるだけ。」
それだけ言うと、マキはこれ以上聞かれたくないのかグラスを磨く場所を厨房の中に変えた。
*
フェアリー・ティアが開店中、クレスト以外のメンバーは一階で接客や料理をしている。
店長である彼は、今は別の仕事をしている。
「さて、ジャストルくん。君は誰からの指示でここに来たのだね?」
単刀直入に聞いた。ジャストルは笑って誤魔化そうとしたが、見透かされると判断したのか、素直にいった。
「貴方のお兄さんからです。あの方から、貴方に会うように言われてきました。何時から、私が誰からか指示を受けていると気づきました?」
「言動がわざとらしいんだよ、君。まるで誰かから教わったのをそのままやっている感じが丸出しだ。そこから、君の上の何かが存在が居ることは想定できた。」
ジャストルの質問には思ったことをそのまま答えた。
死神は溜め息をつくと、やれやれと言った顔になった。
「貴方に手紙を預かっています。当然、貴方のお兄さんである、サイラスさんからです。」
言いながら懐から手紙を差し出す。
受け取って封を切って手紙を読んだクレストは、不機嫌な顔になり一言「バカ兄貴が」と呟いた。
「サイラスさんは、貴方に戻ってきてほしいと思っています。兄弟喧嘩も大概にしませんか?」
「俺は彼奴とはもう家族の縁を切った。サイラスと俺はもう他人だ。それに、彼奴が欲しいのは家宝の在りかの情報だろ?俺じゃない」
キッパリと言い切り、最後は確認するように聞いた。
ジャストルはやれやれと言った顔になりいった。
「私はただ手紙を渡すように言われただけですので、あの人の目的までは存じません。」
それから30秒ほどの沈黙が流れると、ジャストルは華麗な礼をして「では、私はこれで失礼します」と言って退室した。