ブラッド 〜血の運命に抗う者たち〜
□見えぬ者 見る物
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夜のワーラス、街は完全に暗さで静まり返っているが、その中に一つだけ、靴音が聞こえる。
「何なのよ!!何で・・・・・何であんなことが!!」
服が血まみれの女性が街の中を走っているが、その様子は誰かから逃げているように見えるが、後ろには誰も居ない。
『俺からは逃げられない・・・・!!フフフフフフッ』
不気味な笑い声が聞こえ、その声は段々と女性に近づいて来る。
その声にはノイズが流れていて、男女の判断はできない。
女性は建物の物陰に隠れると、声が戸尾抜いて行くのを確認した。
彼女は息を切らせながら、逃げ切ったと思って安心した。
「はぁ、はぁ、はぁ、ありえない・・・・!!どうしてあんなの・・・・・もしかして、あれって・・・・・」
『透明人間だったりしてね?」
女性のすぐ傍から声が聞こえた。
女性は声にならない声で悲鳴を上げるも、誰も来るはずがない。
『さて、女を殺すんだ・・・・・・死ぬ前に楽しいことしようじゃねーか?』
誰か居る、けど見えない・・・・・その恐怖が彼女を精神的に苦しめ、腕を掴まれる感触があり、彼女は大声で叫び、その声は街中に響いた。
その声を聞いて駆け付けた騎士が着いた時には、彼女の体は暴力の限りを尽くされ、息をしていなかった。
犯人らしき者は見当たらなかった。
女性が死んだのはつい先程なのは状況と身体の傷からわかる。
犯人がそんな2分もかからずに騎士が目撃するまでに逃げられるはずがない。
そこで騎士は現実ではあり得ない者の存在を考えた。
透明人間を
*
純白の制服を着た8階騎士リーン・ラリウスが事件現場に着いたのは、事件の起きた翌日のことだった。
リーン・ラリウス、20代前半の女性、実力で8階騎士まで上り詰めた青髪で、部下からの信頼も厚い、将来を期待された若い騎士である。
彼女が今回の事件の担当になったのは、上司である10階騎士からの直々の命令であった。
死体を見るも、特に変わったところはないが、報告書に在った透明人間と言う言葉に馬鹿馬鹿しいと思いながら、最初に発見した騎士から話を聞く。
「本当に、あなたが被害者を目撃したときには誰も居なかったのですね?その被害者の悲鳴を聞いて駆け付けるまでの時間は?」
30代後半の4階騎士の男は、その時のことを思い出しながら応答する。
「確か、2分くらいだったと思います。それで、急いで駆け付けたのですが、犯人が自分から逃げるような足音は全く聞こえず、ですから、透明人間かと・・・・・・」
男騎士の話を聞くと、リーンは呆れた。
「真面目に答えてください!!この世にそんな者が居るはずないでしょう、それでもあなたは騎士ですか?」
男は渋々謝罪すると下がり、リーンは再び被害者を見る。
騎士が悲鳴を聞いてから2分間、2分間でこれだけ殴打して、逃げる時間があるはずがない。
「本当に透明人間なんているのだろうか?」
普通の女性よりも膨らみのある胸の下で腕を組みながら、彼女は険しい顔をして考えていた。
*
ヴァイルがブラッドに入ってから2週間が経つが、元々クレストから聞いていたが、ブラッドが殺し屋活動をするのは月に一度くらいで、その理由は、探索されにくいからだとか、ちなみに、決行する日もクレストが決めているらしい。
朝、ヴァイルは酒場のカウンターを片付けながら深い溜め息をついた。
「どうかしたのか?最近溜め息が多いが・・・・・悩みがあるなら話した方が良い。」
心配して聞いてきてくれたスランに、ヴァイルは言葉に甘えて
「まぁ、悩みと言いますか?最近、お金が足りなくて・・・・・・正直金欠なんですよ」
肩を落とすと、スランは苦い顔をする。
「金欠かー・・・・・・給料日は一週間後なんだが、それまで持ちそうか?」
ヴァイルは首を横に振る。
何せ、この2週間で生活にそろえなければならない物をすべて自腹でそろえたため、朝と夜はちゃんと料理が出るが、昼は皆行動が別々のため、自腹と言うことになっていて、それで残りの金も削れていく。
すると、話を聞いていたガウナーとマキが、ヴァイルに向かって左右に肩を組む。
「ヴァイルちゃんさ〜?」
「ちょっと、お兄さんたちの手伝いしてくれない?」
わざとらしくニヤニヤ笑っている二人に挟まれ、断ればどうなるか察し
「えーっと、その手伝いの分の所得って・・・・・・」
恐る恐る聞いてみると、ガウナーはとあるチラシを出して見せる。
「明日、中央の広場で三人一組の闘技大会がある!!優勝賞金はなんと、100万だ!!それを、三人で分ける、良い話だろ?」
ガウナーの提案にヴァイルは賞金と身の危険を感じたため、受けざる負えなかった。
「賞金100万!!わかりました・・・・・・出ます!」
ガウナーとマキはハイタッチして、早速大会会場である中央広場にエントリーに行った。