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□仕事しない兄さんの扱い方
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俺の部屋の執務机後ろには渋谷を一望出来る硝子窓がある
そこに立ち変わらない街を見るのが俺の日課だ
双眼鏡を片手に目の前にやれば硝子越しに街を一瞥する

「彼奴また痩せたな」
「……この際なんでその距離から痩せてるとか分かるのかは聞かないから、その双眼鏡使ってまでグレンを見る熱意を少しは仕事に向けてくれないかな」
「なんだお前居たのか」
「さっきからずっと居るよ」
「そうか、帰っていいぞ」
「いやだから仕事しろっつってんだろうが」
「部下の様子を見るのも上司の仕事だよ」
「アンタグレンしか見てないだろ」

当たり前だろう。彼奴の他は見る必要がない
視界端で呆れている深夜が見えたが無視だ
しかし、双眼鏡に映る姿はやはり昨日よりまた少し細くなっている気がする。顔をよく見ればうっすら隈も出来ていた
…最近は御無沙汰のはず。昨日は会議もなかった
まさかとは思うが、あの新人の餓鬼と色々ヤッてるんじゃないだろうか

「浮気か…まぁ仕方ないか、グレンは淫乱だしな…」
「ねぇよ」
「じゃあなんでグレンは寝不足なんだ」
「兄さんが仕事しないからですけど」

意味が分からない。その意味も込めて振り返れば、普段の飄々とした笑みを消して呆れた冷ややかな目を向ける深夜が居た
よく見れば此奴も隈が酷い。グレン以上に酷い。なんか、もう窶れていた

「お前もどうした、その隈」
「アンタが!仕事しないから!こっちに仕事流れてんの!」
「そうか、ご苦労」
「いやご苦労じゃないよ仕事して!?」
「俺はグレンで忙しい」
「……そのグレンが寝不足な理由ね、兄さんの仕事がグレンに流れてるからだよ?」

溜息混じりに呟かれた衝撃の事実。マジか。それはいけない
思わず振り返り双眼鏡でグレンを見ていた目を再び深夜に向ける

「もっと早く言えよ」
「さっきから言ってる…取り敢えずこれから片付け──」
「溜まってる仕事全て持ってこい」
「え?」
「今日中に終わらせる」
「…マジで?」
「早くしろ」

パッと笑顔になった深夜が扉を振り返ると、待ってましたとばかりに葵が大量の書類を持って現れた
やはりサボっていただけあってかなりの量。これは今日中には無理だな、明日とで分けるか
すぐに片付きそうで尚且つ期限が迫っている書類とそうでないものに分けていれば、葵が心配そうに口を開く

「あの、暮人様、終わりそうですか?」
「取り敢えず明日と今日で分ける。流石に今日中には─」
「暮人兄さん」
「なんだ?」
「もし今日中に終わらせてくれたら、抱き心地がいい枕で明日一日寝てていいよ」

書類から顔を上げれば、いつものニコニコした笑顔の深夜

「…その枕の大きさは?」
「183cmくらいかな」
「色は?」
「黒と紫」
「その枕はどこにある?」
「第二渋谷高校」
「え、え?」

困惑気味な葵を横に問答を繰り返しその枕の目星をつける
暫し見詰め合ったあと、手を翳すと深夜も翳しハイタッチを交わす

「忘れるなよ、深夜」
「勿論。だから溜まってる分と今日明日の分終わらせてね?」
「余裕だ任せろ」
「ついでに僕に回ってきたのもお願い」
「分かった。すぐに持って来い」
「わーい、ありがとう!」
「え、ちょ、暮人様?深夜様?」

書類の整理は葵に任せてひたすら溜まった書類を片付けていく
明日眠れるのだから、今日はもう寝なくていい
もしかしたら明日も寝れないかもしれないが…まぁ、それは仕方ない
取り敢えずは明日の枕の為にこんな仕事さっさと終わらせてしまおう





(というわけだから)
(どういうことだ)
(枕になって)
(ざっけんなてめぇ殺すぞ)

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