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□もうひとつの破滅
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「グレン」

と、呼ぶ彼女の鈴の音みたいな声が好きだ

「………」
「ねえ、グレン」

でも僕は恥ずかしくて返事だってろくに出来なかった

「グレンってば!」
「…なんだよ」
「やっとこっち向いた」

ごめんね、顔を見ると、恥ずかしいんだ
だって、君は僕が振り返るだけで、花が咲いたみたいに可愛く笑うから
そしてまた顔を逸らしてしまう

「好きよ、グレン」

うん、僕も好きだよ。大好き
僕と彼女は所謂相思相愛
物語ならきっとハッピーエンド
けれど、現実はそんなに幸せに出来ていないんだ

「きゃあああああああああああああああ」

隣で彼女の悲鳴が聞こえた
僕が殴られたからだ
殴られた頬が、燃えるように熱い

「また一瀬のクズか!」
「真昼様に近付くなと何回言ったら分かるんだ!?」
「もういっそ殺っちまえ!」
「いやああああ!もうやめてええええええ!!」

二三人の大人が僕を囲んで、殴る、蹴る、殴る、また殴って、蹴る
隣で彼女が、真昼が泣いている
僕が殴られているせいで、蹴られているせいで、真昼が泣いている
大人の力に子供の僕が敵うはずがないから、僕はサンドバック状態だ
段々と意識が朦朧としてくる
隣で泣き叫ぶ真昼を横目に見れば、涙で顔をぐしゃぐしゃにして、泣いている姿が見えた
あぁ、ごめんね、僕は君の涙も拭ってあげられない

力が、僕には、真昼を守ってあげられる力も、自分を守る力もない
もっともっと強くならなければいけない
もっともっともっと強く
真昼を、僕自身を、守る力を、手に入れなければいけない
それで、いつか言っていた、真昼の夢を叶えてあげるんだ
意識を手放す直前に、そう、心に誓って──


























































なのに

「現段階の医療技術では、お子さんの病を治すのは不可能です」

なのに

「余命二ヶ月といったところですね」

クズの分家の弱者は

「とにかく、病院で安静にしていて下さいね」

力を手に入れることすら許されない

「君は、いつ死んだって、おかしくないんですからね」

嗚呼、神様は残酷だ
大好きな女の子の涙を拭いてあげることすら、させてくれない
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