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□この胸の痛みの理由を知るまであと〇分
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※現パロ。優ちゃんが中一でグレンが中三設定です


雲一つない快晴の朝。まだ眠気の残る目で前を見遣り欠伸をもらしながら歩いていれば、下駄箱手前まで響く羨望を纏った声

「またお前貰ったのかよ!?ずりぃぞ!」
「…知るかよ」

呆れた様に溜息を吐いて、五士を見るグレン。此処の生徒ならまあまあ一度は見た事がある光景だ
校舎に入り、自分のクラスの下駄箱で靴を履き替えながら、後ろで靴を履き替える二人をチラリと盗み見ると、目が合ってしまった

「よぉ、優」
「っ、…お、おう」

笑みを浮かべて手を振ってくるグレン。こんな一挙一動で跳ね上がる心拍数が恨めしい
振られた手は返すことはなく、思わず顔を逸らすと視界に一瞬映った手紙に目を丸くする

「…なんだそれ?」
「ん?あぁ、これは─」
「ラブレターだよ、ラブレター!ったく、こんな捻くれた奴の何がいんだか!」
「五士うるせぇ」

じろりと五士を睨むグレンを余所に、手に持つラブレターをまじまじと見詰める。成る程、確かにこれはラブレターだ
家柄のあれやそれは分からないが、分家の一瀬と言えど、運動も勉強も出来る文武両道を兼ね備え、おまけに顔も良い
そりゃモテるよなぁ、なんて他人事のように思えば、途端胸がチクンとして、胸元をギュッと握り締めた

「…優?」
「え?」
「お前、体調でも悪いのか?胸なんか押さえて」

訝しげに見詰める紫色の瞳
さっきまで針で突かれているみたいだったのに、その目をみたらもう痛くなくなった

「んー…なんかもう大丈夫っぽい」
「はぁ?なんだそれ」
「いや、なんかさっきまで心臓が痛かったんだけどさ」
「優一郎くん、それ大丈夫じゃない」
「でももう痛くないし」
「はっ、なんだよお前。変な奴だな」

困ったように眉が下がってグレンが笑う。その瞬間、今度は心臓がキュウウッと締め付けられて、顔が熱くなって、息が苦しくなる
今日の俺はなんかおかしい

「…なんか息苦しい」
「え」
「顔も熱いし…」
「…お前それ風邪だよ。病院行ってこい」

溜息を吐いてグレンがしっしっと手を振り帰れと促してくる
でもしんどくはない。寧ろ今日は元気なほうだから、多分風邪ではないんだろうけど

「取り敢えず、保健室行って寝てくる」
「そうしとけ」
「本当に大丈夫か?…なぁグレン、お前ついていってやれよ」
「!」
「え?…あー…優、お前一人で─」
「大丈夫!一人で行けるから、心配すんな!」
「…お、おう」

若干声が上擦ったが剣幕に気圧されてか頷いたのを見て安堵する
今グレンと二人、は、なんかダメな気がした。理由は分からないが、本能的に

「じゃあ、行ってくる」
「あぁ」
「気をつけてな」

まだちゃんと履けていない上履きのつま先をトントンとして、踵を収める
グレン達の教室とは反対方向にあるから、此処でお別れだった
手を振ってくる五士に手を振り返すと、ふとまた先程の手紙が視界に入った

「…グレンの奴、あれどうすんだろ…」

読まずに捨てるなんて事は絶対にしないだろうから、まぁ、読むんだろうけど

「返事…どうすんだろ…」

考えだしたら止まらない。反対に足は止まってしまったけど
保健室に続く廊下に佇んで、少し俯いて、考える
誰がグレンにあの手紙を出したのかは、勿論分からない。グレンに好きな人がいるのかも、分からない。その手紙の主が、グレンの知り合いなのかどうかだって、分からない。なんにも分からないけれど

「…フラれたらいいのに」

戯言のように、無意識に呟いた言葉を耳にして俺自身が驚いた
他人の不幸を願うなんて、性悪にもほどがある
思考を散らすようにかぶりを左右にぶんぶんと振り、気合いを入れ直すように頬を軽く叩けば、止まっていた足を引き返して教室に向かう
頬の熱さも、息苦しさも、もうなくなっていたからだ

「今日もいい天気だなぁ」

窓から覗く雲一つない、快晴の青空を見上げて呟く今日の俺の空模様は、曇天だった

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