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□そんな君が好き
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破滅の足音が近付く今日、猛暑。また破滅的に暑い夏日らしく、陽炎が目に見えるほどだった

「あっつ〜…」

いつもの締まりない笑顔はどこへやれげんなりとした表情で制服の襟に指をかけパタパタと扇ぐ深夜を横目に、この茹だる様な暑さで窓際の俺は言葉も発する気力もなく机に伏している
にも関わらず、此方を全く気遣う事なく時折椅子をカタカタ鳴らし揺れ、背もたれに反り返る深夜に暑さのせいもあってかいつも以上に苛立った

「うるせぇな…」
「だってスゲー暑いんだもん」
「暑い暑いって言ってるから暑いんだよ」
「なら寒いって言えって?そんなのただの馬鹿じゃん」
「お前は元から馬鹿だろ」
「グレンに言われたくないね」
「あ?」

伏せていた顔を上げて隣を睨みつけてやれば、いつの間にかヘラヘラとした笑みを浮かべて深夜の目が、スッと細められ途端表情から笑顔が消える

「だってそうでしょ?大それた野望掲げてるくせに、五士や美十ちゃん、更には足手纏いな従者だって助けちゃうんだから」
「………」
「馬鹿だよ、本当。愚かで、馬鹿で、クズで、優しい」
「…褒めてんのか貶してんのか、どっちだよ」
「どっちだと思う?」
「知るか」

実際、本当に分からない。自分は何がしたいのか
深夜の言う通り、一丁前に大それた野望を掲げているくせに、その野望成就の為の邪魔な人間を、この手で助けてしまったのだ
馬鹿でクズな一瀬
本当にその通りだと思った
だから真昼にものろまな亀だと揶揄されるのだ

「ちょっと感傷気味な感じ?」
「うるさい」
「あはは、図星か」
「黙れ」
「怒るなよー」
「…別に怒ってねぇよ」

横から伸ばされた人差し指を手で払い落とし上げた顔をまた伏せる
暫くの無言の後、不意に隣から椅子を引く音が聞こえた。そちらに視線が動き、深夜と目が合い直ぐに視線を逸らす
顔を背けるように横を向き突っ伏していれば、頭上にふわりと僅かな重みを感じた

「なぁグレン」
「なんだよ」
「確かにお前は馬鹿でクズで、どうしようもない甘ちゃんだけどさ──」

深夜が俺の頭に手を置いて、髪を梳くように撫でながら言う
と、言葉の続きを遮る形で

「グレンー、あっちぃしアイス買いに行こうぜ」
「ついでに飲み物も買いに行きましょう。ほら、伸びてないで起きて下さい」
「グレン様、大丈夫ですか!?」
「今氷を…!!」

五士、美十が俺の机に集まって来る。その直後に、小百合と時雨も他クラスからやって来た。まるで意図したみたいに
野心も欲望もかなぐり捨てて手に入れたのは、鎖で繋がれた足枷みたいな仲間たち
こんなものを大切にしてしまうから、いつまでも弱い。真昼や暮人に敵わない。追い付けない。クズなまま
五月蝿くて寝れたもんじゃなく、渋々顔を上げれば笑顔の馬鹿共がグレングレンと俺を呼ぶ
深い溜息を吐いて頬杖をついていれば、横から手が述べられた。見上げれば予想通り、深夜の手だった

「なんだよ?」
「アイス買いに行くんだろ?なら早く行こうよ」
「…俺は行くなんて一言も言ってな─」
「はいはい。ほら、行くよ」

言いかけた言葉を遮って、机に置いた手を無理矢理掴まれ引っ張られる

「なっ、お、おい…!」

縺れそうになる足を前に前に出して転ぶのを回避する
恨めしそうに睨みつけてやれば、チラリと振り返って、柔らかく笑って深夜が言う

「悪くないでしょ?クズの一瀬も、さ」
「はぁ?」
「君が仲間を裏切れない、見限れない、殺せない、甘ちゃんのクズのグレンだから、皆君を選んだんだよ」
「………」

後ろを振り返れば、走って追い掛けて来る、俺を選んだ馬鹿が四人。揃いも揃って本当、馬鹿ばっかりだ
こんな足枷は早く斬ってしまったほうがいいと、分かっているのに、グレンと俺の名前を呼ぶ此奴らが、なかなかどうして嫌いになれないものだから

「本当、お前らと居るのは疲れるな…」

呆れたように溜息を吐いて笑ったら、お前も大概だよ、って深夜が笑って言った

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