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□そのキスはコーラ味
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グレン宅、時刻は丁度正午に差し掛かるかといったところだろうか。二人だけのリビングでする事もないからとあの爆弾ゲームを深夜とグレンはやっていた

「好きだよ」
「…はぁ?」

視線は画面に向けられたまま、何の脈絡もなく告げられた言葉にグレンは顔を顰める

「なにがだよ」

それに深夜が困ったように笑う

「えー、それ聞いちゃう?」
「主語がねぇのに分かるかよ」
「察しろよ」
「無茶言うな」

とグレンが深夜を見る
居心地が悪そうに視線を画面から外し、やがて諦めたように溜息を吐いてからゲームを一旦中断させ、深夜もグレンを見た

「君だよ」

静かな部屋に鮮明に響く声
一瞬訳が分からず更に眉を寄せていたグレンだが、理解したのか途端驚愕に目が見開かれる

「…なんだよ、急に改まって」

素直な好意には慣れていない。受け取るには少し怖くて、何故か怖ず怖ずとした口調になってしまった
そんなグレンを見て深夜は額を押さえ溜息を吐く

「はぁ…ねえ、グレン」
「ん?」

コントローラーをカーペットに置いて、大して開いていないグレンとの隙間に手をつく
指通りの良さそうなふわふわした漆黒の髪を梳き撫でながら、深夜は囁くように言う

「お前さ、どっちの好きだと思ってる?」

もう少し距離を詰めれば、鼻に息がかかりそうな距離だった

「友達とか、家族とか…その…親愛だと思ってる?」

また、困ったように深夜が笑う
首を少し傾けて囁く様は、まるで聞き分けのない子供を諭す母親に酷似していた

「残念ながら違うんだよね。親愛じゃない…もっと、もっと、ドロドロして、汚くて、黒いほう」

じわじわと、内を侵食されるような感覚を覚えた
髪を撫でていた深夜の手がグレンの形をなぞるように下に滑らされ、頬に宛てがわれる

「そんなに怖がらないでよ」
「別に怖がってない」
「嘘、怖がってるよ」
「…何を根拠に─」

唇に人差し指を当て、言葉の続きを遮る
視界端で小さくグレンの肩が跳ねたのを横目に、深夜は更に顔を近付けた
二人の隙間はもう人差し指一本だった

「根拠ならあるよ。今の家族っていう、親友っていう関係が壊れるの…怖いでしょ?慣れないなりに安息を見出だし始めたばっかりだもんね」
「………」
「それに、グレンは僕の好きを受け入れられないもんね。君には真昼がいるから」

と言って、深夜はそれまでに詰めた距離を一気に空ける
元の位置に戻ったのだ
無意識に肩を竦めていたのか、深夜が離れたと同時に肩の力が抜けて深い溜息がもれた
いつものヘラヘラした笑顔で深夜が言う

「まぁ、いわゆる出来レースなわけだけどさ」

深夜がコントローラーを手に持ちボタンを操作してメニュー画面を閉じる
軽快なメロディーが流れ、ゲームの再開を告げれられグレンは慌ててコントローラーを握り直した
二人とも視線はテレビ画面へと向けられたまま

「じわじわ蝕んでいくことにするよ、グレンを」
「…病原菌みたいだな」
「うっわ、なにその言い草」
「それか…寄生虫?」
「酷いなぁ。他にもっとマシな例え方ないわけ?」

手元は忙しなく動いたまま、いつもと変わらない悪態のつきあいをする
グレンは内心安堵する
しかし、その内心を見計らったように深夜がグレンの襟を掴んで自分の方に引き寄せた
必然的に傾く身体を支えるため、床に手をついたと殆ど同じタイミングだった

「んっ…!?」

深夜とグレンの唇が重なる
目を閉じる深夜に対し、グレンは驚愕に双眸は大きく見開かれたまま、数秒も経たぬ間に離される
唖然とするグレンをけらけらと深夜が笑う

「あはは、変な顔」
「…誰のせいだよ」
「僕のせいだね」

と何故か嬉しそうに深夜が呟く
それをグレンは恨めしそうに半目で睨みつけた
細められた目を少し開けて、睨みつけてくる反抗的な目を深夜は愛おしそうに見詰める

「言ったでしょ?じわじわ蝕んでいくって」
「物理的な意味でかよ」
「精神も物理も、どっちも。だから、油断してたら食べちゃうからね」

ちゃんと警戒してろよ、と深夜は言って楽しそうに笑いまたゲームを再開させる
世界が滅亡しかけているというのに、本当になんて馬鹿馬鹿しい事だろうか
一瞬天上を仰ぎ、再び画面に視線を向けグレンは本日二度目の深い溜息を吐いた

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