ドリーム(ぎんたま)

□窓を開けて飛び出すのさ
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俺の彼女はとてもシャイガールだ。今までの人生で見たことがないほど恥ずかしがりやで、最初は物珍しさで絡んでいたが、だんだんその優しさや、俺にだけ見せる表情を知って彼女に惚れてしまった。それから俺の猛アタックで、つい最近ようやく恋仲になった。よくやった俺。パチンコ我慢してデート代絞り出した甲斐があったぜ。
恋仲になって一カ月。手をつなぐ、軽いキスをするまで進んだ。そして今日、ようやく次の段階に進む時が来た。とうとう、この日が。彼女の家にお泊りデートだ。もちろん俺がねだりにねだって約束を取り付けた。お泊りオッケーっつーことは、あれだよな。男女のあれをあれだよな。やっべ、考えただけであれがアレだ。やっべ。ちょっと、あの、ケツからアレでそう。緊張のあまり腸が反乱を起こしたらしく、俺は慌ててトイレに駆け込んだ。頼むから今のうちに出しきってくれ。肝心なときにこれはやべぇから。頑張れ俺。
トイレにこもること数分。すっきりしてトイレの扉を開ける。うっし、そろそろ家出るか。そう思って玄関で靴を履いた途端、今度は前からのアレが。ちょっと、なんでさっき一緒に済ましてこなかったんだよ。やべぇよ待ち合わせ時間ぎりぎりじゃねぇか。…走りゃ間に合うか?よしさっさと済ましてくるぞ。急げ俺。
今までにない早さで事を済ませ、トイレから出たら間に合うか間に合わないかの時間。やべぇよ今日は遅刻したらまずい。俺は大慌てで家を飛びだした。
全力で走って、待ち合わせ場所についたときには、彼女はもうすでに来ていた。
「あ、」
彼女は俺の姿をみると、はにかんで小さく手を振った。なんだこの天使は。あがった息を落ち着かせ、よう、と手を上げる。
「わりぃ、待った?」
そう聞くと、ぶんぶんと首を横に振る。そして何か言おうとして、彼女は一瞬動きを止めた。…なんか、今までに見たことない表情してんだけど。驚きと衝撃と困惑が混じったような。彼女はゆっくり目を閉じ、開いて、また閉じた。…え?何この間。俺なんかした?もしかしてやっぱ遅刻寸前がまずかった?待たせたのがまずかった?お泊り中止か?冷や汗をかく俺に、彼女は背を向けた。え?中止の危機?
「…あの、……と、トイレ、行きたいんです…けど…。」
なんだ、トイレか。ビビった。
「おー行って来い。まってから。」
「あ、あの、…銀さんは?」
「俺は済ませてきたから。」
彼女は振り向かないまま、その場で動かない。…え?動けないくらいヤバいってこと?どうフォローするべきか。そう考えているうちに、彼女は小走りで公園のトイレに入っていった。トイレって言うの恥ずかしかったのか。女の子だもんな。可愛い彼女だまったく。
間もなく彼女は出てきて、俺と目を合わせないまま、もじもじしだす。緊張してんのかな。…そうだよな。恋人できたことがないっつってたもんな。初めては怖いだろうしな。俺がしっかりリードしてやんないと。
「家行く前に、ちょっとぶらっとしてくるか?」
そう言うと、彼女ははっと顔を上げた。お、良い食いつき。
「ほ、本屋さん…!」
必死な表情で訴える。…そんなに見たい本でもあんの?


本屋に着くや否や、早足で何かを探しに行く彼女。なに銀さんより大切な本があるっていうんですかー。別に拗ねてませんけどねー。楽しくはないですけどねー。まぁこの後のお楽しみのためにガマンしますけどー。そんなことを思っているうちに彼女はある雑誌を持ってきた。レジ通す前に俺に見せにくんの?そんなに銀さんに見せたいのか。彼女の行動にほっこりしたのもつかの間、その雑誌の特集のタイトルを見て、俺は沈黙した。
「…彼氏のアレのサイズ…?」
「…あ、あの、………。」
サイズって…サイズって。ちょっと、そんな大人しそうな顔してもしかしていろんな男と…。いや、ここは彼女を信じよう。きっと気になるお年頃なんだ。そう、今夜を前にきっといろいろ勉強したいだけなんだ。俺は、真っ赤な彼女の肩にそっと手を置く。
「大丈夫だ。銀さんに任せとけ。しっかりリードしてやっから。」
すると彼女は目を見開いて、またどこかへ走り出す。間もなく違う雑誌を持ってきた。今度は住宅関連の雑誌だ。…え?今度は何?彼女はパラパラとページをめくり、窓について取りあげてある個所を指差した。窓?わからねぇ。こればっかりは分からねぇ。
「…何がいいてぇの?」
「ま、窓から…!」
真っ赤な顔をして、先ほどのアレの特集を指差す。窓?アレ?…まど?
………………………………………………………しゃかいのまど?
俺は静かに社会の窓の確認作業に取り掛かろうとして、あることに気がついた。…オープンどころかコンニチワしていた。あの、アレが。
彼女を見ると、雑誌で顔を隠していた。
…気を使わせてごめんなさい。
静かに俺は落ち付いてタイムマシンを探す。

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