ドリーム(ぎんたま)

□108本をあなたに
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団子屋に奴の姿が見えて、私は唾を飲み込む。奴の隣にしれっと座って、団子屋の店長に声をかけた。
「店長、団子108本お願い。」
「…いやお前どんだけ団子頼んでんの。」
銀髪頭はぎょっとした表情をしたが、私は奴の顔を見ず、出されたお茶をすする。むせた。
「うぇっほ、うぇ、ううううう。」
「おいおいおいおいなんかそのまま吐きそうな雰囲気なんですけど!?」
「お客さん、お待たせしました。」
「いやいやいやいやどう見たって団子108本も食える状態じゃねーだろ。オヤジ、わりーけどコレ下げて…。」
「私…じゃなくて…銀ちゃんに…あげるから…。」
ヤバい、緊張しすぎてむせるわ吐きそうになるわ…。がらがらの声で銀ちゃんの言葉をさえぎると、私は山のように積まれた団子を指差す。銀ちゃんは怪訝な顔をした。…まだ分かんないか!銀ちゃん!
「け…結婚してください…!」
私の背中をさすっていた手がぴたりと止まる。そして銀ちゃんは静かに団子を見上げ、私の顔を見て。
「バラの代わりかよ!」
てっぺんの団子を叩きつけられた。たれが目に染みた。


「可愛い女の子からの一世一代のプロポーズだってのにどうして断れるのかなー。どんだけ勇気出したと思ってんの。」
銀ちゃんと共に万事屋に帰ってきた私は、あの大量の団子をテーブルの上に置くとソファーにドスンと腰を下ろす。銀ちゃんもよっこいせと向かい側に座った。
「あん?可愛い女の子ォ?そんなんどこに、」
「見えない目なんてなくっていいよね。」
銀ちゃんの目に団子を押し付ける。どうだ痛いでしょう。さっきの仕返しだ。床にのたうちまわる銀ちゃんにざまあみろと吐き捨てた。そして大きく息を吐いて、天井を見上げる。
「…ずっとここにいれたらいいのになぁ。専業主婦になりたい。」
「ウチで専業主婦は無理だぞ。」
「…じゃあ万事屋の看板娘に…。」
「あ?なんて…ごめんなさいもう団子はやめて。」
ようやく復活してきた銀ちゃんは、元の位置に座る。私も構えた団子を元の位置に戻す。
そして、静かになる万事屋。チクチク、と時計の音が響く。ふ、と嫌なことを思い出して息がつまる。
「…何があったのか知らねぇが。」
銀ちゃんの声に、はっとして顔を上げる。無意識に手をつよく握りしめていたようで、ゆっくりこぶしを広げる。
「逃げたってしょうがねぇだろ。」
「…逃げたい。もうやだ。」
「…逃げたところで、結局後で後悔すんだろ。お前は。」
…わからない。考えたくない。だって考えるのも辛い。考えたくなくても頭の中はそればっかになるけど。でも考えたくない、逃げたい。
ずし、と椅子が軋む。銀ちゃんが私の隣に座る。
「愚痴こぼしたっていい。失敗したっていい。だけど逃げんな。逃げたらずっとお前ん中にずっと残んだ。金魚のフンみてぇに引きずっちまうんだ。」
銀ちゃんの言葉を、頭の中で繰り返す。何も言えなくて、代わりに目が熱くなる。胸が苦しくなる。俯くと、銀ちゃんの手が私の頭に乗った。そのままよしよしと撫でられる。
「一人で抱え込むんじゃねぇぞ。」
「…ん。」
「辛くなったら、俺が支えてやらぁ。」
「…うん。」
ぼたぼたと涙が膝に落ちる。あったかい手は、まだ私の頭を撫でてくれている。ひっく、としゃっくりがでて、止めようにも止まらない。銀ちゃんの顔を見上げると、銀ちゃんはただまっすぐ前を向いていた。見てないから泣いちまえ。そう言われてる気がして、私は気が済むまで泣いた。
「…お前が気が済むまでやんなきゃなんねぇことやったら、そんとき団子108本貰ってやるよ。」

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