居候が増えまして

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ざああ、と降る雨に大きなため息をついた。出る前は雨なんて降ってなかったのになぁ。走って帰ろうかとも考えたけど、買い物袋の中には卵が。傘買うかなぁ…。でも荷物が増えるしなぁ。家計厳しいし、あんまり無駄な出費はしたくない。銀さん確かに貧乏だって言ってたけど、まさか神楽ちゃんがあんなに食べる子だとは思ってなかったし、定春くんも見た目通りの食欲。入ってくるお金は、ほぼ二人の食費となって消えている。うーん、とスーパーの前で立ち尽くす私。スーパーに入る人、出る人みんな傘を持っている。いいなぁ、買おうかなぁ。でも出費…。……寒いなぁ。雨降って気温下がってきたみたい。帰りたい。荷物重いし。そんなことを考えているうちに、寂しくなってきた。ううう、雨ってなんでこんなに気分落ち込んじゃうんだろう。ううう。
「オーイ、そこのお嬢さん、ちょっとお茶いかね?」
男の人の声が聞こえる。こんな雨の日になんなの。私は俯いたまま、返事を返す。
「今そんな気分じゃないです…。」
「え、そんな気分だったら行っちゃうわけ?俺が誘拐犯だったらどうすんだ。」
…あれ?なんか聞き覚えのある声。顔を上げると、そこには銀さんが。銀さんは、よう、とさしている傘を持ち上げた。
「ぎ、銀さん…!」
「ちょ、なんで目ぇうるんでんの。誰かにケツでも触られたか。」
「今現在言葉によるセクハラを受けてます。」
「涙引っ込んだみたいだしいいだろ。」
まったくもってよろしくないけど、銀さんの軽口のおかげで寂しさ紛れたのも確か。…というか、この人なんでここにいるんだろう。そんな疑問を抱いて、改めて銀さんを見る。
髪の毛はいつもより割り増しでくるくる。目は相変わらず死んだ魚のような目。意外としっかりした肩、片手で傘をさし、空いた手には……。
「…迎えに、来てくれたんですか?」
「あー、あれだ、なんか家に一本無駄な傘があって邪魔だったから捨てようとした途中。え?なにお前傘忘れたの?こんな雨なのに?だっせーなー。しょうがねーからコレいる?捨てようと思ってたやつだけど。」
一人で早口でそうまくしたてると、銀さんは手にしていたそれを差し出した。無駄な傘というそれを。私はひっそり笑いをこらえて、傘を受け取った。
「ごみになるより、私に使われた方が喜びますよね。」
ぱん、といい音を立てて傘は開いた。それを頭上にさし、雨空の下に足を踏み出す。しっかり雨を弾く音に胸が温かくなって、くるくると傘を回した。
「こら、ガキじゃねぇんだから傘回すな。しぶきが飛んでくんだよ。」
「銀さん、帰りましょう。」
「ちょっと話きいてますかー。」
「聞いてますよー。」
銀さんを追い越して、軽い足取りで進む。後ろから、ばしゃばしゃと銀さんが水たまりを歩く音が聞こえる。
万事屋に、こんな花柄の傘なんてあったかな。値札がついたままの傘なんて、あったかな。
雨の日がこんなに嬉しいなんて思ったのは、初めてだ。

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