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□柳宿の源
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「魏は…大丈夫やったんか?」
「うん。元気になったみたいよ」
紅南国宮殿・翼宿の部屋。
そこを訪ねていたのは、七星で一番仲がよく信頼が置ける柳宿だった。
先程、魏と鬼宿が同時に現れるという不可思議な現象が起きた。
事態は混乱していたが、一人悩む魏の話を柳宿が聞いてやった事でどうにかそれは終息に向かいつつあった。
こんな時、頼りになるのはいつでも冷静で懐が広い七星士の"姉御"柳宿だ。
巫女や七星が悩んでいる時は、すかさず手を差し伸べてケアをする…今回も、そんな柳宿に自然と魏を任せる流れになったのだ。
「しかし…お前は、頭の回転が早いというか…敵わんわな。何で、そんなに人の事よく見てられんねん」
「んな事ないわよお。あたしは、みんなの力になりたいだけ。短気な翼宿くんとは、違うのよ?」
「じゃかあし。俺は、クヨクヨするんが性に合わんだけや!」
長座椅子に腰掛けながら、二人はそんな会話をする。
翼宿としては柳宿を褒めたつもりだったのに、すぐに盲点をつかれた返しをされてしまう
ある意味、これも彼の特技なのかもしれない。
だから、ちょっと強めに小振りな肩を自分の胸に引き寄せる。
怪力が能力の星士でも、引き寄せた時に感じるその小ささは同じ星士ながら護ってやりたくなるものだ。
「大丈夫…か?」
「…何がよ」
「疲れたりしてへん?」
こいつは他人の事ならいくらでも尽くせる癖に自分の事になると滅法弱い事を、翼宿は知っていた。
だからこそ、とても信頼している分だけとても心配な面もあるのだ。
しかし柳宿は微笑みながら、翼宿の肩に頭を乗せる。
「…今回はね。あんたの入れ知恵を使ったのよ」
「へ?俺、何かしたんか?」
「あたしはあたしでいいって…手当ての時に、言ってくれたじゃない」
忘れっぽいゆえ、記憶を手繰り寄せるのには時間がかかった。
確かに、そんな事を言ったような覚えもある。思い出せたのは、せいぜいそのような感覚だけ。
「あたしの中には…あんたがいるから」
「……………」
「馬鹿でお調子者でも…本当はあたしなんかよりずっと強い、あんたのその笑顔があれば、あたしは何だって出来る…」
続きを言う事は、叶わなかった。
自分の唇が、そのいじらしい唇をそっと阻んだのだから。
そして柳宿も遅れて目を閉じ、その接吻を受け入れた。

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