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□花舞う都で
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柳宿の誕生日と星宿の誕生日のちょうど真ん中は、紅南国にちょっと早い春が訪れる日。
紅南国宮廷には、毎年その日に春を運んでやってくる花吹雪が吹くと言い伝えられている。
その貴重な光景を見ようと民は躍起になるが、当然宮廷の中。そう、簡単に見る事は出来ない。
しかし、巫女と七星士として選ばれた七人だけはもちろん特別にその光景を見る事が出来る。
それに、興味がある者だけに限られるが━━━

「あーあ!美朱はたまちゃんとお出かけだし翼宿達は興味ないって言うし、あたし一人だなんて!」
七人の一人・柳宿は、このような言い伝えが大好きだ。
最も、妹が生きていた頃は是非ともこの目で見てみたいと何度もその話を聞かされていた。
「………康琳。あんたにも、見せてあげるからね」
胸に手を当てそう呟くと、例の宮廷の丘に人影が見えた。
艶やかな髪の毛を優雅に一纏めにしているその女のような男は、視線を感じて振り返った。
「星宿様!」
「柳宿。そなたも、花吹雪を見に来たのか?」
その言葉に、柳宿の顔がパッと輝いた。
まさか、星宿様が直々に(お一人で!)同じ場所に足を赴いてくださるだなんて!
「星宿様♡ご一緒出来て、嬉しいです!星宿様も、花吹雪をご覧になった事がないんですか?」
「ああ。おかしな話だろう?ずっと宮殿に籠もりっきりだったから、外に目を向ける機会もなくてな」
寂しそうなその横顔は、いつも見てきているもの。
「………じゃあ、今日は記念の日ですね!」
「そうだな。やはり、七星士で興味があるのはわたしとお前だけのようだな」
「ふふっ。たまにはこういうところで気分転換しないと、息が詰まりますから!」
うーんと、柳宿は伸びをした。くすぐる花粉の匂いだけで、もうそこら中が春である事が分かる。
花吹雪は、いつ吹くかは分からない。気長に待つ事が、必要とされる。
沈黙を共有する事も厭わぬ二人だったが、星宿の方から声は掛けられた。
「お前の話を、ゆっくり聞いた事がなかったが」
「えっ!?」
「なぜ、お前はそのような姿になったのだ?」
「………………」
決して、嫌だった訳ではない。だけど、星宿がそう疑問に思うのも当然の事だ。
「………変な事を聞いて、すまない………お前があまりにも美しいから、嫉妬してもいてな」
「…………っっっ!!??」
星宿は、微妙な空気を察して慌ててその言葉を打ち消すが。
しかし、その言葉が柳宿の心にクリーンヒットしない訳がない。
「………星宿様にそんな風に言っていただけるなんて、それだけで死んでしまいそうです」
「…ははっ。なぜ、涙ぐむのだ。わたしは、嘘などつかないよ」
心を許せば、割と爽やかに笑ってくれる。柳宿は、星宿のこういう一面が特に好きだ。自分に向けられると思っていなかった微笑みを見て、ときめきに胸が躍る。
「重たい話です。妹の死を受け入れられず、妹に成り代わろうとしたんですよ」
「え…?」
「理解される事の方が、少ないです」
努めて笑ってはいるが、膝を抱えて小さくなる柳宿の姿に星宿は目を細める。
「そうであったか。お前は、やはり心根が優しい子なのだね」
「そんな事は、ございません。だけど、わたしも今日の花吹雪をずっと楽しみにしていました。妹が見たがっていたので、わたしのこの目で見られればと思っています」
ビュウッ
途端に吹いた春風が、二人の髪の毛を揺らした。
南西方向、色とりどりの花びらが集まってこちらへ向かってくるのが見えた。
「あれが…」
「ああ。綺麗だな」
暫し見惚れていた二人だが、いつしかそれらが二人の前を包むように通過する。
「柳宿」
「え?」
気付けば、星宿の香りは後ろ側へ移動していて。
「手を出してごらん」
後ろから両腕をそっと掴まれ、顔が耳まで赤くなる。
そうしている間に、幾重にも重なった花びらが柳宿の掌の上で身体を休めるように落ち着いた。
「………素敵」

「お前の中の妹にも…もっと見えるように」

優しい言ノ葉が、涙を誘う。嗚咽を漏らした肩が、そっと抱き寄せられた。
「柳宿。これからも、また互いの事を話そう」
一方通行やすれ違いばかりで交わる事のなかった思いが、今日この日少しだけ報われた気がした。
欲しかったその笑顔、声、そして腕の中。
今日は柳宿にとっても、星宿に近付けたとても大切な記念日だ。

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