百花繚乱・第一部

□第四章『君の正体』
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六人目の七星を探し始めた一行だったが、捜索は難航。
それどころか美朱は失明してしまい、病を治すには一度死んでから少華に生き返らせて貰うしか術はないという事態になっていた。
星宿、柳宿、翼宿は、町医者の妙寿安にどうにか病を治してもらうよう頼み込んだのだが、そこで少華は既に亡くなっている事を聞かされた。




『柳宿…お前、後で恨むで…』
『どうぞ、ご自由に!サボってないで、しっかり働きなさい!』
張宏まで後少しというところで、翼宿と柳宿はゾンビの大群に囲まれていた。
そこには、星宿の姿はない。

三人は急ぎ美朱の元へ向かっていたのだが、途中で出くわしたこのゾンビ集団に行く手を阻まれてしまった。
そこで一刻も早く美朱を助けて貰わなければと判断した柳宿が、星宿だけを先に行かせたのだ。
結果、囮に利用された翼宿がそんな柳宿を恨む形となっているのだ。

『ホラ!さっさと片付けて、あたしらも美朱のトコに行くわよ!』
『くっそー!こいつら、生きてる人間なんか!?それなら、下手に烈火使えへんやんけ…』
大木を振り回していく怪力の星士を横目に、自分も仕方なく素手と鉄扇でゾンビ達を薙ぎ倒していく。
だか、その中で女性だと思っていたその星士の事が少し気にかかる。
『おい、あんま無茶すんやないで!』
『何がよ!』
一旦、背中合わせになった柳宿に、翼宿は声をかける。
『女のお前には、無理な人数や』
『あら、心配してくれてるの?翼宿ちゃん』
『そやないけど…美朱だけやなくて、お前も女なんやから…』

ドカッ

その時、翼宿の背後に迫っていたゾンビが誰かに殴られて宙を舞った。
『へ…?』
その音に驚いて振り返ると、見上げるほどの背丈を持つ男が立っていた。
前髪を鉢巻きで持ち上げてはいるが、その面影はどこかで見た事がある人物のように思えた。
『だ、誰や…お前…』
『少華は、どこだ…?』
『どこって…すぐそこや。張宏の中心の…』
『あっ…』
同じく気を取られていた柳宿の眼前に、ゾンビが迫る。
『やば…っ…!』

ザクッ

ゾンビが持っていた包丁が柳宿の肩を切り付け、辺りに鮮血が飛び散った。
『柳宿!!………くそっ!!』
翼宿は、なおも柳宿を襲おうとするそのゾンビの胸ぐらを掴んで殴り飛ばした。
謎の大男も、その横で応戦を続けていく。
『柳宿…行けるか!?』
肩を支えると、相手は小さく呻く。
『結構…深かったかも…』
『あかんな。こりゃ、ちゃんと手当てせな…』
『大丈夫か?』
大男がこちらに駆け寄った頃には、ゾンビは全員気絶していた。
すぐに張宏へ向かえるが、負傷した柳宿を放置して向かう事は出来ない。
くっと顔を上げると、目の前の大男を見据えて翼宿は告げた。
『おっさん、少華さんに用があるんやろ?俺ら後から行くから、先に行っておいてくれんか?』
『あ…ああ、分かった。気をつけろよ』
『ほれ、柳宿…立て』
『い、いいわよ…あたしの事は…それよりも、早く美朱を…』
『ええから!黙っとき!』
『翼宿…』
その大男が治癒力を能力とする六人目の七星士、妙寿安こと軫宿であるとは知らず、翼宿は柳宿の肩を担いでその場を離れた。



休憩処の椅子まで柳宿を運んだところで、懐から手当て用具を取り出した。
『な、何よ…あんた。随分用意がいいじゃない』
『当たり前やろ。山賊に怪我はつきものや。………服の上から止血じゃ、菌が入るな………見せれるか?』
傷の場所は、服を片方はだけさせなければ届かない場所だった。
女性の手前、少々遠慮がちに問いかける。
『ふっ…』
そんな翼宿が可愛く感じたのか、柳宿は突然吹き出した。
『な、何がおかしいんじゃ!』
『全く…女慣れしてないわね、あんたは…そんなんじゃ、好きな女が出来ても押し倒す事すら出来ないわよ?』
『何の話や!このまま、放っとくぞ!』
『いいわよ…お願い』
『え…』
するりと帯をほどく事で、柳宿はその華奢な肩を露にした。
『すまんな』
『ううん…ありがと。ごめんね、こんな緊急事態に…』
『ええて。お前かて、無理しすぎや。いくら怪力やからいうても、お前に暴れ回らせるのは男としてしめしがつかん…』
その時、突然片方の手を取られた。
『へ…』
『あんたに女の子扱いされんの…何か気持ち悪いわ』
その手は、ゆっくりと柳宿の胸元に引き寄せられていく。
『んなっ………!!ちょお待て…
……………ん??』
想像していた胸の膨らみが…ない。
『そゆ事。これからは、対等に見てよね』
『お…お…お…オカマ!!!』

バキッ

『声が大きいのよ、バカ!!』



『これで、ええ…』
頬を片方腫らした翼宿が、手当てを終える。
『気をつけろよ…ホンマに』
今、目の前にいる美女の正体をまだ受け入れられないが、再び念を押した。
しかし、目の前にいる彼は微笑みながらこう告げる。
『翼宿…ありがと。あんた、いい奴ね』
その少し照れ臭そうな笑顔に、翼宿は胸に熱いものを感じた。


何で…オカマやろ、こいつは…?


女なんか嫌いだったのに…なぜか目の前にいるこの女みたいな奴に、心を奪われずにはいられなかった。

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