百花繚乱・第一部

□第三章『柳宿の勘』
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新たな仲間に加わった翼宿。
一時は翼宿は死んだと嘘をつき美朱達を追い払ったが、先代に背中を押されて七星になる決意をした。



ひとまず落ち着いて、一行は野宿をする事にした。
パシャパシャ
翼宿は、泉で顔を洗っていた。
水面に映るその顔は、もう山族ではない―――国を護る朱雀七星士の一人。
『………重いなあ。しっかし』
今まで気心知れた仲間と好き放題やってきたのとは、訳が違う。
喧嘩っ早くて強引な自分が、他の仲間と協力しながら一人の女を護っていく事が出来るのだろうか?
『………ねえ。あんた、何で山を離れたくなかったのさ?』
その時、背中から声がかけられた。振り向くと、紫色の髪が見える。
確か…柳宿という奴だ。
『何やねん。別に、どうでもええやんか』
初対面の…しかも女性に話しかけられるのには抵抗があるため、ついそっぽを向く。そんな翼宿の傍らに、柳宿は座った。
『何か山賊稼業の他にも、大切な思い出があるみたい〜』 
自分に興味を示すその顔はとても綺麗なもので、女性に興味がなかった翼宿でもさすがに鼓動が鳴った。
二人の間に、秋の夜風が吹き抜ける。
その風を感じ、なぜか素直になれる気がした。
『………随分勘がええ女やな………そうや。あそこには、俺が妹のように可愛がってた女がおったんや』
『へえ…』
『やけど、この鉄扇護る為に死んでしもた』
『え…?』
そう言うと、背中から鉄扇を取り出す。
それは月の光に反射されて、キラキラと輝いていた。
『そいつに、言われたんや。朱雀の宿命を嫌がっていた俺に、きちんと巫女守って朱雀七星士として働けてな』
『翼宿…』
『そんで、遂にそん時が来て…名残惜しかったんやろなあ。そいつから離れるいうんが』
『………意外に熱い奴なのねえ、あんた』
『へ?』
『あたしと気が合いそうじゃないv』
柳宿は笑い、翼宿も笑った。


確かに、そうかもな…


初対面なのに落ち着けたのは、彼女…彼が放つ空気のお陰。
この旅…少しは楽しくなるかもしれない。
新参者で少し不安を抱えていた翼宿の気持ちは、ほんの少し軽くなったのだ。

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