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□親友で心友
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都で一稼ぎして山に戻る頃には、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。
今回は少々遠出したため、馬でのお出掛けである。
翼宿は久々に握る手綱をわざと緩めて馬の歩を遅めながら、夕焼けが広がる至t山をボンヤリと眺めていた。
秋風が肌を通りすぎると、もうすぐ冬の到来が間近にある事を感じる。
冬―――大事な親友がこの世を去った日。
死に目に遭う事も亡骸にすがる事も許されなかったけれど、七星士で唯一心を許せる相手だっただけにその別離はあまりにも突然すぎた。
毎年毎年、これからもこの秋の夕焼けを眺めながらそんな気分に浸るのだろうか?


「じゃあ…久々に、お話しましょうか?」
「……………………………………………」


「○×△●×▲!?」
「動かないでよ!馬が、転んじゃうでしょ!?」
懐かしいハスキーボイスが聞こえたと思ったら、背後に同じ七星の気配を感じた。
自分の後ろに乗っているのは、まさしく、今、自分が考えていた親友の霊体。
「柳宿…お前、何で…?」
「意外と暇なのよね〜空の世界は!久々に外に出てみたら、何やら感慨深げな背中が見えたもので」
「けっ!一仕事終えて、疲れてるだけや!」
「七星で唯一心を許せる相手との別離が、あまりにも早すぎたって」
「勝手に、人の心覗くなや!!」
生前と変わらず姉御肌でつつかれ苛立ちを見せる翼宿に、柳宿はクスクスと笑う。
「…元気そうやな」
「もちろん!あんたみたいに、いつまでもメソメソしないわよ〜大人だもん」
「んな事言うとるけどな〜今年で、俺もお前と同じ18や!いつまでも、姉貴面すんなや。あ、オカマの場合は何て言うんや?」
ボカッ!
「いったあ!!力、使うな!俺まで、享年18で死なせる気か!」
「うっさいわねえ!そのギャンギャンぶりが直らない限り、あんたは一生あたしのバカな弟よ!」
それでも、こんなやりとりを交わせるのはお互い嬉しい。
ついでに柳宿の武器が、少しの触れ合いを許してくれるのも嬉しい。力の加減は、必要だけれど。
「あっちでは、俺みたいにストレス発散出来る奴がおらんで、つまらんやろ?」
「…………はあ?」
「ずーっと、澄ましてるか面倒見るかくらいしか、出来へん立場やろうからな」
「るさいわねえ。あんたこそこんな美人と喧嘩のひとつやふたつが出来た事がどんなに貴重だったか、後悔してたんじゃないの?」
「…………んな訳あるかい」
間髪入れずに飛ばし合っていた茶々が止まると、秋風が二人の沈黙を遮るように吹き抜ける。

「「つまんない」」

そして、同時に同じ素直な回答を呟いた。
「フッ…」
「何よ、今の…」
そして、二人同時に吹き出した。
「あーあ!久々に話すと、こうやから!面倒な感情が出てしもたわ」
「あたしも〜普段なら、あんたの事なんてこれっぽっちも思い出さない筈なんだけどねえ!空の世界でも、星宿様が美しすぎて!」
「へいへい。こっちも優秀な山賊頭ゆえ、お前みたいなオカマ普段なら頭ん中掠りもせえへんわ」
明らかにその表情には笑みがこぼれているのに、二人は懲りずに嫌味を飛ばし続ける。
それまでにお互いを襲っていた悲しみや寂しさなんて、このテンションに任せてとっくに吹き飛んでいる筈なのに。
似た者同士はいつまで経っても平行線で、素直になれないから困るものだ。
「そろそろ、時間だわ」
「…………ああ」
そこで、初めて馬の後ろに乗っていた七星士が自分の眼前にフワフワと姿を現す。
「翼宿ちゃんも、あたしへの未練なんか吹き飛ばせる程のお嫁さん、早く貰いなさいよ?」
「アホか。お前なんかに、未練なんぞ片端もないわ。さっさと、消えろ」
「はいはーい。分かりましたよーだ」
「…………せやけど」
「んー?」

「俺がいつか嫁を取っても、お前と俺のポジションは、永久に変わらへんわ」

「え、何ー?聞こえなーい!」
「ええから!幽霊はベラベラ喋らんと、はよどっか行け!」
「何よお!翼宿のバカ!」
柳宿は思いきり舌を出すと、そのまま姿を消していった。
後に残ったのは、馬の蹄の音だけ。
それでも、翼宿の気持ちは軽かった。
次からも、遠出にはなるべく馬を使おう。
また、この道中であいつと会える日が来るのが楽しみだ。


「柳宿さん!お帰りなさい!どちらへ、行ってたんですか?」
「ああ、張宿!外の世界を散歩よ、散歩!」
太極山に戻ると、小さなお迎えが柳宿を待っていた。
「翼宿さんや井宿さんとは、お会いしましたか!?」
「ん?うーん…」

『俺がいつか嫁を取っても、お前と俺のポジションは、永久に変わらへんわ』

「…………ふふ」
「え?柳宿さん?何か、嬉しい事でもあったんですか?」
「内緒よ、内緒!張宿も、後五つくらい歳を取れば分かる話よ♪」
「え…僕、もう歳取れないですよ…教えてくださいよ、柳宿さ〜ん!」

本当は聞こえていた、御守りの言葉。
翼宿と自分は、永久に親友で心友。
どちらかが欠けると『つまらない』存在。
だから、また会いに行こう。
親友で心友…大切な人のところへ―――

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