『散ればこそ』
夢主とぬらりひょん初対面少し後





「おう、てめーら!今帰ったぞ!」
「そーだいしょーー!いったい今までどこ行ってたんですか!!!探したんですぞ!?」

関東一帯の妖怪を締める"奴良組"総大将ぬらりひょん。彼が江戸にある奴良組本家に帰った事を伝えると中から様々な妖怪が出てきた。
その中でも1番に飛びついたのは何かと彼に苦労している鴉天狗だ。冒頭の台詞もそのカラスのものである。

「なんだ、カラス。騒々しいのぅ。ワシが帰ってきたというのにおかえりなさいも無しかい。」
「ええ、ええ。普通でしたら私も言いますよ。」
「普通に帰ってきただろう?」
「"普通"ですとーー!?!?一月程前出て行ったっきり便りもなし。これのどこが普通ですか!!」

カラスの説教が始まると集まっていた妖怪達は巻き込まれまいと早々に屋敷の中へと避難した。しかし説教を受けている本人はどこ吹く風。ぬらりくらりと受け流し屋敷に入る。

「ちょ、話はまだ終わってませんぞーーー!!!」




*****





その後もカラスから逃げ続け夕飯時。ぬらりひょんは思い出したように下僕の妖怪に話し始めた。

「おお、そうじゃ。出かけている間京で面白い奴に会ったぞ。」
「面白い、ですか?」
「ああ!人間の子どもなんだがな。」
「なんと、人間とは。」

サラッと。あまりにもサラッと言ったので流しそうになった。しかしやはりというか、この者だけは聞き逃さなかった。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください、総大将!京ですと!?京に行ってたんですか!?一人で!??誰にも言わず!?!?」
「ま〜たカラス、お前かい。ちったぁ静かにできんのか。」
「誰のせいだと思ってるんですかー!!それより今京周辺がどうなっているかご存知でしょう!?」
「おう。羽衣狐じゃろ?それくらい知っとるわ。」
「それならば!」
「カラスよ。夕餉にまで説教なんて飯がまずくなる。それにこうして無事なんじゃ。もう気にするな。」

この大将には何を言っても無駄とわかっているからか、それ以上何も言えなくなってしまった。
そして京で会ったという人間の子どもの話に戻った。

「神社の一人娘の巫女見習いらしくてな。いやしかし、十にもならん幼子なのにワシら妖を怖がらん。そのうえ口もなかなか達者でな。才もある。」

ぬらりひょんは会った時の事を思い出し笑いながらその少女について語った。

「ほう…。それは面白い。」
「京という事はまた会えるかもしれませんな。」
「その時は是非我等もお目にかかりたいもんじゃ。」

「そうじゃのぅ…、あれは将来見た目にも楽しみじゃ。」

ぬらりひょんのその言葉に今まで黙っていた者が声を上げた。

「ふ〜ん…でも子どもじゃない。そんな子どもじゃなくて妾の方が…。」
「雪羅、子どもにまで嫉妬せんでも良いじゃろう。」

雪女の雪羅だ。周りの面々は慣れたようでまたか、という顔だ。一方ぬらりひょんは笑みを浮かべからかうように言った。

「なっ、な、な………名前で呼ばないでよぉぉぉ!!!」

そして案の定顔を真っ赤にして部屋を出て行ってしまった。鴉天狗を氷漬けにして。
これもまた日常なのか慌てる者はいない。







「また、会えるといいが……。」

ぬらりひょんの呟きは誰にも聞こえず消えていった。


自分の知らない遠く離れたところでこんなやり取りがあったことは本人は知る由もないだろう。










コメントをくださればやる気がぐんと上がります。単純です。(返信不要の方は明記してくださると助かります。)



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ