王道くんになりたい!・番外編

□バレンタイン・パニック
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注・こちらは名倉くんが一年の半ばで変装がバレた場合のifです。


――2/13

……もうすぐバレンタインである。世の中では女子が意中の男子にチョコをやる日、この佐土高では男子が意中の男子にチョコをやる酔狂な日だ。正直、そんな日の存在など今まで忘れていたのだが、……



「あ、あの、名倉くん」
「ん?」



2月13日。俺が爽と登校し席に座ると、いきなり隣のクラスの生徒数名が声をかけてきた。何やら顔を赤らめているが、真ん中の生徒には見覚えがある。確か、文化祭で一年のプリンセス(……意味不明だ)に選出されたとかいう生徒だ。その生徒を真ん中に、何やら生徒たちはもじもじしていたが、やがてプリンセス生徒が俺にチョコを差し出した。



「……明日、バレンタインでしょ?……これ」
「……」
「きっと、明日は名倉くん、忙しいだろうから、……ちょっと早いけど、これは僕の気持ち。……受け取ってくれる?」
「……」



差し出された赤い箱。それに何となく俺は手を伸ばし、それを見たプリンセス生徒はほっとした表情を浮かべる。そんな様を隣にいる爽は目を丸くしながら見つめ、前の席にいる石川は般若のような顔をして睨み付け、伊代はわたわたしながらこちらの方を見つめている。そしてプリンセス生徒は「それじゃあ、ありがとう」と言って微笑しながらそそくさと教室から出ていった。そして姿が見えなくなると、早速石川がやって来て、不機嫌な顔をしながら俺の手から赤い箱を叩き落とした。



「全く、……ナニあんなあざといののチョコなんて貰ってんだよ、バカウド!あんなわざとらしいアピールに騙されるなんて!」
「石川。……しかし、せっかくわざわざ持ってきたんだ。受け取らないのは失礼だろう」
「……アホ!お前は自分のツラ、鏡で見た事ないのかよ!そんな調子で、オマエは来るチョコ来るチョコ、全部貰うつもりか!しかも無防備で付け入る隙ばっかり与えやがって……!」



俺の言葉に、石川はますます苛ついたのか喚くだけ喚いて俺の頭をバチン、と叩く。それにクラス中が一瞬ざわつき、それを見た爽がため息をつきながら石川に言った。



「おい、石川。あんま澪汰を責めるなよ。こいつは単に、天然なんだ」
「それも限度ってもんがあるだろ!無自覚も行き過ぎりゃ有害だっつーの!……ったく、こんな事ならダサダサの時のほうがよっぽど良かった……!」



ぶつぶつ、と石川は文句を言う。それに爽は苦笑しつつ、俺に少し真剣な表情を向けつつ言った。



「なあ、澪汰。石川は言い過ぎだが、確かに一理あるぜ。……お前、明日はかなり大変だぞ?少しはガードしてないと、えらい事になるぜ」
「……想像がつかんが」
「……はあ、……確かに無自覚はちょっとタチが悪いな……」



俺の言葉に、爽は頭をかく。……確かに共学にいた時はそこそこにこの時期は大変な時もあった。しかし俺が中学で悪名を流してからはそれもなくなったし、正直バレンタインはかなり縁遠いものだ。俺がピンと来ず首を捻っていると、突然クラスの入り口から声が聞こえてきた。



「朝早くすまない。名倉くんはいるかな」
「おはよー、名倉くん!」
「名倉くん、おはよう」
「……マモリ?に、志野に多田」



そこにいるのは守、そして副会長親衛隊の志野と多田だった。その三人に一瞬クラスはざわついたが、三人は構わず俺に近づき、そしてめざとく赤い箱を見つけるとため息をつきながら言った。



「……ああ、遅かったか。もう先手を打たれてたとは」
「?先手?」
「その赤い箱だよ。……やはり名倉くんを狙う輩は、数多いるんだな。……こうしてはいられない」



マモリは眉をしかめ、後ろにいる志野と多田に言った。



「志野、多田、これから副会長親衛隊が、13日と14日は名倉くんを付ききりでガードするぞ。必要とあれば、門田も協力すると言ってる」
「……はあ?」
「うん、任せて!名倉くんのガードは僕たちがしっかりやるから!」



わけのわからない事を言い始めたマモリに、志野が同調する。それを聞いた石川は眉をしかめマモリに食ってかかった。



「おい、何勝手に決めてんだよ!ウドはB組の人間なんだよ、副会長親衛隊関係ねーだろ!しゃしゃり出てくんなよ!ウドは僕たちが守るんだよ、そうだろ脳筋!?」
「……はあ?」



突然話を振られた爽はかなりびっくりした顔をしたが、俺の顔を見た後軽く頷いた。



「……まあ、確かにそうだな。コイツのこの調子じゃあ、明日はとんでもない事になりそうだしな」



ため息をつきながら言う爽に、俺は抗議の声を上げた。



「おい、別にそんな大袈裟な。大体、バレンタインだからって俺にチョコなど持ってくる酔狂がそんなにいるわけが、」
「名倉くん、君の謙遜は美徳だが、自分の価値を正しく把握するべきだ。君の美しさは校内でも指折りなんだよ?そんな君が、こんな危ない日にノーガードでいるなど、危険過ぎる。飢えた狼の巣に美しい白鳥を解き放つようなものだ」
「……しかし」
「……まあマモリの言い方は極端だが、やっぱ一理あるぜ。今日明日だけは、オレらに任せとけよ」
「爽、お前まで」



俺の言葉に、マモリは声を低め、爽もため息をつきながら言う。……こうして、俺は2/13と2/14は副会長親衛隊と爽たちに守られる事になったのだった。

2/13・了・
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