新宮くんと平良くん・番外編

□新宮くんと平良くんと生徒会とF組の打ち上げ
1ページ/8ページ


注・こちらは『新宮くんの決戦ふたたび』内での校内テスト結果発表後の、生徒会とF組との打ち上げの一幕になります。



1,F組にて(sideはっちん)


――校内テストの結果発表の掲示が行われ、俺たちF組の山田が、素晴らしい成績をおさめた日の、放課後。F組はこれまでになく騒がしかった。……それはそうだろう、校内でもクズだなんだと卑下されてきたF組の生徒が、上から数えて二十番目、しかも選抜クラスのSの生徒にも打ち勝ったのだ。この快挙に俺たち改革派は沸き立ち、誰もが山田の偉業を讃えた。



とはいえ、この声がF全体の意思というわけでは当然なく、……現状維持を望む生徒の中には、『山田も腑抜けになった』『結局は体制に迎合した』なんて言い、山田自身に面と向かって悪態を吐く者もいた。しかし山田は何を言われようが顔色も変えず、あからさまな挑発にも応じようとはしなかった。そんな山田の様子に俺は胸を撫で下ろしつつ、……やはりまだまだ全体を纏めるには遠い現実に少しため息をついてしまう。そんな俺の頭を、久留島が小突いてきた。



「おーいおい平良、お前また余計な事考えてやがるのか?今日はめでたい日、……俺らFがこのガッコの連中に一矢報いた記念すべき日なんだぜ?それが山田の力っつーのがちょっとムカつくがよ、今くらいは素直に喜んどけって」
「……そうだな。でも、結構みんな、残ってくれたな。こんなに山田の事を喜んでくれるなんて、嬉しい想定外だ」



俺はF全体に視線を向ける。朝、宇田川と大和田がクラス内に呼びかけ、『山田パーティ』が催されることになり、発起人の宇田川たちはパーティのための買い出しに行っている。だから放課後になってもここにいる生徒たちは、みんな山田の快挙を祝うのに同意した面子で、山田を囲んで何やら盛り上がっているようだ。そしてそんな生徒たちの主役である山田は、いつもとそんな変わった様子も見せず、群がる生徒たちを軽くあしらっている。そんな様子を見ながら俺がそう言うと、久留島は肩を竦めた。



「あー、……そりゃちょっと違うな。いや、みんな山田をネタに騒ごう、っつーのは前提としてあるけどよ。一番の理由は、生徒会の連中が来る、って事だよ」
「……新宮たちが?」



久留島の言葉に、俺は思わず目を見張る。すると久留島はちょっとため息をつきながら言った。



「今まで俺ら、生徒会なんて縁もゆかりもなかったろ。それがいきなりFに来るっつーんだぜ、そりゃあ物見遊山な連中なら参加したくもなるだろ。しかも生徒会役員は美形の集まりってのは有名だからな、あの美人副会長さんなんざFでも知られてるくらいだったし。ま、そんな感じで、あわよくば綺麗どころとお友達に、なんて考えてる下心ありの奴もいるってこった」
「……」



久留島の言葉に、俺は少し複雑になる。言われるまでもなく、新宮たちが見た目が綺麗なことはよくわかっていた。外見だけではなく、その心まで綺麗なことは俺は今まで彼らをずっと見てきてわかっている。特に新宮は、思いやりがあって、優しくて明るい、太陽のような男だ。そんな新宮を見て、誰かがあいつに心惹かれてしまったら、俺は嫉妬してしまうかもしれない。そう思い、俺が少し狼狽えると、久留島はそんな俺を察したらしくまた俺の額を叩いてきた。



「全く、……おい、何暗くなってんだ、平良」
「……久留島、……」
「どーせお前のこった、あのバ会計が心配なんだろ?ここに来たら悪目立ちして大丈夫なのか、とか」
「……」



久留島の言葉に、俺は頷きつつ眉をしかめながら言った。



「……それもある。だが、本音を言えば、みんなに新宮を知られるのが、……少し怖い」
「はあ?なんで」
「……あいつは見た目だけでなく、明るいし、優しいし、純粋だし、真面目だし、……心もとても綺麗な男だから、きっとみんな心惹かれてしまうと思う。そうしたら、俺は新宮を取られたくなくて醜い自分を晒してしまうかもしれない。……そんな俺を知られたら、新宮に失望されてしまうんじゃないかと思うと、……」
「……」
「あいつが周囲の羨望を集める存在だって、わかってるんだけどな、……いざ目の前にしてしまうのかと考えると、……少しな」



俺がそう言うと、久留島はため息をつきながら言った。



「……お前、あのバ会計に夢見すぎてやしないか。見た目はまあともかく、……心が綺麗?純粋?あいつが?」
「?あいつほど明るくて純粋な奴はいないだろう?」
「……」



俺がそう言うと、久留島は眉をしかめながら言った。



「……まあ、いいや。なら、平良。今日はあのバ会計にひっついてたらどうだ?で、余計なのは排除しろよ」
「え」
「お前があのバ会計をガードしろよ、そんなに奴が魅力的だと思うなら。……恋人なんだろ?なら、惚れた奴は自分で守らなきゃよ」
「……」



久留島の言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じる。……恋人、という具体的な名称をあいつにつけていいのか、それに、俺が勝手にそんな事を考えあいつを独り占めにしていいのか、という疑問は確かにあった。……だが。



やはり、俺は新宮が好きで。……ほんのちょっと、ワガママを言いたい。あいつが俺の束縛に鬱陶しくならない程度に、……そんな言い訳をしながら、俺は久留島の提案にちょっと頷いたのだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ