新宮くんと平良くん・番外編
□さ迷える平良くん
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今日は会計の仕事もないから、はっちんに会いに俺は中庭に行った。
「はっちーん」
「、」
俺の声を聞くとはっちんは算数ドリルから視線を外す。そして俺ははっちんの顔を見た途端目を丸くした。
「………はっちん。日焼けしたよね?」
土日を挟んで会ってなかったが、はっちんは金曜より幾分日に焼けていた。俺の言葉にはっちんはうなずく。
「少し。わかるか?」
「ん、まあ。けどどしていきなり」
するとはっちんはため息をついた。
「ああ、………実は、土曜に叔母が倒れて」
「えっ」
思わず俺は目を見開く。
はっちんは所々の都合で、今は父方の妹さんである叔母の家に厄介になっている。そんな事情を知る俺としては、聞き逃せない話で。
「え、それって……大丈夫なの?」
するとはっちんは首を振った。
「ああ、大したことはなかった。けど、」
「けど?」
「叔母の家から駅に着くまでに道に迷ってしまってな………二時間ほどさ迷ってたんだ」
「…………………」
……はっちんが見た目と反比例して残念なのは知っている。でもまさか、住んでた地域までわからなくなるほど残念だったとは。
俺は思わずはっちんをまじまじと見る。俺の言いたいことに気づいたのか、はっちんは苦笑した。
「おいおい……さすがの俺だってそこまで残念じゃない。」
「あ、俺のキモチわかっちゃった?」
「わからいでか。……実は叔母の家は最近引っ越ししたんだ。行きは叔父が迎えに来てくれた車に乗ったからよかったんだが、用があるというんで帰りは歩いてくことにしたんだ。まあ歩けば30分くらいだろうし、大丈夫だと思ったんだが左に行くべきとこを右に曲がってしまってな……」
「…………」
「まあ結局、全く正反対の駅には着いたからいいんだが」
「…………あのさはっちん。途中でおかしいと思わなかった?」
俺の問いにはっちんは頷いた。
「まあな……行きは渡ったことがない橋を渡った時点でおかしいと思ったが」
「ならそこで引き返そうよ」
「………あの日は暑くて引き返す気力がなかった……」
はっちんはため息をつく。
「何よりその橋、産業道路の延長にあるせいかやたら長くてな………車しか通らない民家もないコンビニもない。もうその時は喉が乾いて乾いて何より水が欲しかったから、引き返してまた倍時間食うよりとりあえず先行ったんだ。今ならオアシスを死ぬ気で求める旅人の気持ちがわかる気がする」
「…………。」
そんなのわかんなくっていいから。
俺ははっちんの頭をガシガシ、と撫でた。
「まー無事でよかったよ。今日び暑いんだからさー、変なとこでぶっ倒れかねないんだから、遠出するならペットボトルくらい常備しなよね」
「そうだな」
「あと、毎回迎えに来てもらうわけにもいかないなら、地図書いてもらいな。わかりやすい目印書いてあるやつね」
「そうだな」
「後は、」
俺は一つ息をついた。
「その、はっちんの新住所、俺に教えて」
「………なぜだ?」
はっちんは少し不思議そうな顔をした。…ちょっと俺は動揺するが、さも『仕方ない』という顔をつくってはっちんに向かう。
「また迷ったら、俺んとこに電話してくりゃナビってあげるよ。知ってりゃ少しは力になれるかもしれないしさ。まあ、嫌ならいいけど」
「………新宮」
はっちんは少し感動していて、それを見俺は少し罪悪感を感じる。
………いや、ほんとはさ。はっちんの家とか、知りたいだけで。
もちろんはっちんがまた迷うようなら力になるし、なんなら一緒にいくんだってやぶさかじゃない、が、まあまだ俺たちはそんな仲じゃないし、何より居候のはっちん家に押し掛けるのは気がひけるし。
そんなことを考えてると、はっちんは俺に紙を一枚差し出した。
「じゃあ、これ」
「ん、りょーかい」
俺はアドレスを登録し、はっちんに向き直った。
「じゃ、俺のも教えとく」
「、いいのか?」
はっちんは少し意外そうな顔をした。
「いいもなにも………俺だけ知ってんのもフェアじゃないじゃん。ん、フェアとは違うか」
「………そうか。いや、すまない。」
「すまないって………なんか変じゃね?」
「そうか?じゃあ、ありがとう」
………ありがとうも、違うと思うが。
しかしはっちんはめずらしく満面笑顔で俺を見ていて。で、俺はそんなはっちんに思わず呆気にとられる。
…………なんつーか、やっぱり。
はっちんは、変な奴だ。
そう思うのに、嬉しそうなはっちんを見てると俺もなんか、嬉しい気がしてくるのが不思議、………だった。
・END・