短編

□みぃちゃん新年あけおめ文2016
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……チャリン、…ガランガラン、……パン、パン。



俺がお賽銭を投げた後、鈴を鳴らして拍手を打ち手を合わせると、矢野もそれに合わせて二拝二拍手していた。横目で奴の様子を見ると、何やら熱心に願っているようだったので、俺も願いをとりあえず神様に祈っておく。



「………」



矢野は俺が願い終わって一拝した後も、まだ何か願っていたようだったが、少しするとすっきりした顔をして俺に向かった。



「よし、じゃ、行こうか、みぃちゃん」
「オイコラ、ちゃんと神様に一拝していけ」



俺が矢野の頭を小突くと、奴は嬉しそうな顔をしながら言った。



「はーい、ごめんね、みぃちゃん、ごめんね、神様」



そう言うと、矢野は深く頭を下げた後、俺の腰に手を回した。



「みぃちゃん、何お願いしたの?」
「願い事はな、言うと叶わないんだよ。……つか、お前、この手はやめろ、神域で不謹慎な」



パシン、と矢野の手を俺は叩くが、矢野は懲りずに今度は俺の手を握ってきた。



「はーい。じゃ、手ならいい?俺、みぃちゃんと手、繋ぎたい」
「………」



俺は、にこにこする矢野の顔を見つめる。……嬉しそうなこの顔に、なんのかのと俺は弱い。俺はため息をつき頷いた。



「………まあ、許す」
「やった!」



ガキのように喜んで、矢野は俺の手をしっかり繋ぐ。ただ指を握るだけじゃない、指と指をしっかり絡めたその繋ぎ方に、俺はため息をついた。



「……歩きづれぇよ、バカ」
「いーじゃん。……ここなら、うちのガッコの連中もいないし、こんな辺鄙な神社だもん、あんまり人もいないし、……神様だって、少しは許してくれるよ」



お賽銭500円出したし、と矢野が言う。それに対し出しすぎだ、と俺が言うと、矢野はにっこり笑った。



「いいんだよ。お礼しにきたのもあるんだし。去年のお願いを叶えてもらったから、今年のお願いも叶えてもらおうと思ってさ」
「………なんだ、それ」
「みぃちゃん、聞きたい?去年の俺のお願い」



そう言うと、矢野は俺の耳元に囁いた。



「………みぃちゃんと、両想いになれますように。来年は、一緒に初詣に来れますように」
「………」
「でね、今年のお願いはね、」
「……だから、言ったら叶わなくなると、」



俺は矢野を止めようとする。しかし矢野は、制止する俺に構わず言った。



「……みぃちゃんと、来年も、ううん、再来年も、その次も、ずっとずっと、一緒にいれますように」
「……」
「……ねぇ、みぃちゃん。……これ、神様に頼まないと叶わない願い事かな?」



にこやかに、しかし真剣な顔で矢野が問う。それに対し、俺も矢野に向かって言った。



「……じゃあ、俺の願いも言ってやる。俺の願いはな、……」



――お前が、浮気しないでずっと俺の近くにいることだ。



「…!」
「……なあ、矢野。これも神様に頼まないと叶わない願い事か?」



俺が問うと、矢野はとろけそうに甘い笑みを浮かべた。



「ううん、……みぃちゃん、俺、みぃちゃんのお願いは必ず叶えるよ」
「……なら、俺もお前の願いは、叶えてやるよ」



俺がそう言うと、矢野は俺を抱きしめた。



「……みぃちゃん、ありがとう。……今年も、……ううん、これからもずっと、ずっと、よろしくね」



今までで一番嬉しそうな顔をした矢野の言葉に、俺はため息をつきながら、「仕方ねぇな」と、頷いた。



・END・
 

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