短編

□生徒会長様の憂鬱
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……俺は今、とてつもなく憂鬱だ。正直、人前に出ることが恐ろしい。できるなら、今すぐ自室に戻りたい。戻って、鍵を厳重にかけて天戸も閉めて閉じ籠り、誰の声すら聞きたくない。



だが俺は生徒会長。仕事には行かねばならない。だがそれこそが、俺を憂鬱にさせる最大の理由だ。……そして俺は、いますぐ逃げ出したい衝動を押さえながら、生徒会長専用机に座り黙々と判子を押している。そんな般若のような俺を見て心配したのか、パソコンを叩いていた、友人でもある会計の勇人(ユウト)が、俺に話しかけてきた。



「寛貴(ヒロキ)、どうした?さっきから怖い顔してるが」
「………っ、」



『ヒロキ、どうした?さっきからエロい顔をしてるが』
『っ、ユウっ!』



……その声は本当に俺を心配しているものだった。が、心中俺はその声にオーバーラップしたとある画面にびくついた、が、何とかなんでもないように言った。



「……なんでもない。今は話しかけるな、仕事中だ。」
「だが、顔色が悪い。保健室にでも行ったほうが、」
「……うるさい。お前、文化祭が終わったからって、たるんでるんじゃないのか。俺たちは全校生徒から信任を得てこの仕事を任されているんだ。文化祭の収支報告の期日は来週だぞ、時間なんかない。まず口よりも手を動かせ。……英士(エイシ)、寝てないで仕事しろ、順也(ジュンヤ)、こっちのチェックは終わった、次の書類を持ってこい」
「はいはい。……全く、ヒロはお堅いなぁ、さすが鬼カイチョー」
「英士、ぶつくさ言ってんなよ。……ほい、寛貴」
「ああ」



クラスメートでもある書記の英士がぶつくさ言うのをよそに、副会長の順也が、邪気もなく俺に書類を渡す。その接近にすらびくつきながら、俺は辺りを見回す。



ここは静かで、俺たちの他には誰も来ない。それはそうだ、ここは生徒会室、選ばれた人間しか入れないし、誰も来ない。……誰も来ないからこそ、



……そう、俺は今、この環境に怯えているのだ。



事の始まりは、久しぶりの実家の帰省。二年で生徒会長に就任した俺は、文化祭や体育祭の準備で忙しく、夏休みも仕事に明け暮れ、実家に帰る暇がなかった。そして11月、やっと仕事に一区切りがついたので、俺は三連休を利用し、実家に顔を見せることにした。



……実は、漫画読みたかったし。



学校では自他共に敏腕鬼会長で鳴らしている俺だが、実は漫画オタクである。ジャンルは問わない、少年少女青年レディースなんでもござれだ。中学の頃は漫喫に通いつめ、漫画の読みすぎで目を悪くし、回りには『クール』なんて言われてるこの眼鏡ルックもなんてことはない、オタク活動のなれの果てだ。俺の部屋はお気に入りの漫画家の単行本で埋め尽くされ、床が抜けそうだと親から責められた。寮生にさせられたのも、実はこれ以上俺に漫画を増やさせないための陰謀だったなんて虚しすぎて涙が出る。



まあ、確かに寮でそんな漫画を持ち込むわけにもいかないし、一度築き上げた『クール』の仮面をはずすのも勿体ないので、俺の漫画ライフはもっぱら今はサイトのデジ漫だ。が、やはり贔屓の漫画家のは紙面でみたい。しかも、この秋、一年一巻ずつしか発刊されない漫画家がやっと続刊を出してくれることもあり、俺はそれ見たさに帰省を心待ちにしていたのだ。



そして、学校を出た途端、俺はまっすぐ本屋に向かった。もちろん、学校からは離れた本屋を狙って。そして目的のモノをゲットしホクホクしながら漫画棚を物色していると、ふとその作者の見慣れぬ表紙の漫画が目に入った。



「……ん?」



表紙は、男子生徒二人が妙に密着している絵。見てすぐ、ああこれBLだな、とはわかった。俺の好きな作者は女性だということは知っていた。そしてちょっとこういう漫画を描いてることも知ってた。まあ、いつもの俺ならそれはスルーしただろうが、この時の俺は久しぶりに来た(たぶん半年ぶりだ!)本屋にハイになっていた。この作家以外にも、買い損ねてた漫画も買おうとカゴには10冊くらい本が入ってる。……まあ、たまにはいいか、と俺は軽い気持ちでそれをカゴの中に入れた。



……それがどんな中身なのか、確認もろくにしないで。
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