Choice
□生活
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部屋に入ってきたウタは動きを止めた。
「夢叶は……モノ作りとか、創作活動が好きなの…?」
床に座って忙しなく鉛筆を動かしている。
「好き、と言うより……思い付いたら描いておきたいし…」
そう言っている最中でさえ手を止めない。
ウタが置いていたスケッチブックは夢叶の絵で埋まっていく。
「じゃないと忘れちゃう…?」
「そう、忘れちゃうから」
漸く描き終えたのか、鉛筆を置く。
「見せて…」
「あ、うん」
スケッチブックをペラペラと捲っていく手があるページで止まった。
「マスクのデザイン……」
白と黒だけで表現されたそれ。
だがそれだけでも、十分な作品になる気がした。
「ウタのマスク見てたら思い浮かんだから…」
そこから数ページ続いているマスクのデザイン画。
「……なるほどね…」
スケッチブックを夢叶に返す。
「作ってみる?…マスク」
「え?あ、でも作ったこと…」
ない、と言おうとした夢叶の手を取る。
そしてマスクを作る時に使っている作業台に連れて行く。
「座って。…ぼくが教えてあげる」
先程のデザイン画が気に入ったのか、次々道具を出してくる。
顔型がどうこう、継ぎ目がどうこう…。
モノ作りへの予想外のこだわり。
夢叶は一生懸命聞いてみたが理解までの道は長そうだ。
憶えている限りの作業で何となく作ってみる。
「……絵は繊細なのに、実際作るとなると大雑把なんだね…」
正直な感想を言われ、作りかけのマスクを置く。
「でも絵で終わらせるには勿体ないな……」
スケッチブックのデザイン画をまじまじと眺める。
「……夢叶、このデザインでぼくが作ってもいい?」
「ん?これで良かったらいくらでも使って」
席を代わるとてきぱきとマスクを作っていくウタ。
夢叶はそれを目を輝かせながら見ている。
暫くすると絵の通りの面影が見え始めた。
ウタは手を止めると立ち上がった。
「お腹空いてきたし、ご飯にしようか…」
そう言って肩を抱かれ、先日のウタの言葉を思い出す。
「(私、とうとう喰べられるんだ…)」
「……いい感じに緊張してるね」
頭上から聞こえた笑い声に顔を上げた。
「夢叶のお陰で久しぶりにいいマスクが作れそう…。
………もう暫く、夢叶の絵でマスクを作ってたい…」
((欠けていたものが満たされる充足感))
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「今度タトゥーのデザイン画描いてよ…」
「え……私、タトゥーは彫るつもりないし……」
「だから、夢叶じゃなくてぼくが彫るの」
「そっか、分かった。考えとく」