BOOK
□闇夜の月
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今、何と言われたのだろうか?
「…は?」
功績を讃えて特別に部屋に呼んだローから伝えられた言葉に、グラスを奪われたドフラミンゴが間の抜けた声を出す。
酒に酔うにはまだ早い。
取り寄せた数珍しいブランデーは一杯目で、まだ半分も減っていないのだから。
「聞こえなかったのか? 褒美はお前がいいって言ったんだ、ドフラミンゴ」
艶やかに笑いながらローがドフラミンゴの膝に手を着く。
近づいてくるローの貌を見つめたドフラミンゴは、呆れたようなため息を吐き出した。
男からそういう目で見られるのは初めてではない。
だが、ドフラミンゴはマイノリティーの性癖を持ち合わせていなかった。
熱い目で見つめてくるローはいつから自分をそういった目で見ていたのかと、ドフラミンゴは窺うようにただ黙って整った貌を見つめていた。
「抱いてくれねェんなら、おれがやってもいいけど」
それは困る。
男に抱かれるだなどと、想像すらしたくない。
ましてや今まで手塩をかけて育ててきたローに抱かれるというのは、ドフラミンゴのプライドが許さなかった。
常に捕食する立場でいるドフラミンゴは、ローの誘いに微かな頭痛を覚えてきた。
「悪いが、男を抱く趣味も、抱かれる趣味もねェな」
「試してみなきゃ解んねェだろ?」
ローはドフラミンゴの言うことなど聞くつもりもなく、膝に乗せた手を肩に移動させて変わりにその膝の上に座ってやる。
いつもは身長差があるけれど、ローがドフラミンゴの膝に座ったことによってその差は縮められた。
「じゃあ聞くが、お前は誰かに抱かれたり抱いたりしたことはあるのか?」
ローにそのような性癖があるとドフラミンゴは知らなかったし、また噂も聞いたことがない。
言い寄ってくる女も、それこそローの方こそ男もいるだろうに、何故自分に言い寄ってくるのかドフラミンゴには解らなかった。
「ねェよ。おれはアンタがいいから、ずっと待ってた」
真剣なローの眼差しにドフラミンゴの頭痛が更に酷くなる。
「なら、尚更初めての相手は女にしておけ。興味があるなら今からでも用意してやる」
ドフラミンゴは宥めるようにローの頭を一度撫でた後、その躰を膝の上から退かせようとした。
「───っ…!!!?」
その僅かな一瞬で胸に走った衝撃に、ドフラミンゴはやられたとローを見返した。
ローの手の中にはドフラミンゴの心臓がある。
いくら部下であるとはいえ、このような行動を起こせばただで済むはずもない。
それを一番よく知っているはずのローがこんな行動を起こすのだから、ドフラミンゴはその本気が窺えた。
「おれは本気だぜ、ドフラミンゴ?」
はぐらかして逃げようとするなとローはそう言い、熱く脈打つドフラミンゴの心臓に舌を這わせていく。
ぞわりとした言い難い感覚がドフラミンゴを襲い、情事を連想させるような淫猥な舌の動きに、堪らずローを刺激しないように顎を捉えて間近から見つめてやる。
欲の籠った熱い目で見つめられたドフラミンゴは、静かにため息を吐き出した後、ローに告げてやった。
「解った解った。抱いてやるから心臓を返せ、ロー」
まさか部下に取り引きをされるとは思いもしなかったドフラミンゴが降参の旗を上げ、ローの望みを叶えてやると言う。
ローでなければ今すぐにでもその躰を切り刻んでいただろうが、そうは出来ないのだからドフラミンゴはこの男に対してだけはつくづく甘いと思った。
ドフラミンゴの言葉にニヤリと笑ったローは自分の躰から心臓を取り出して、変わりにその心臓を厚い胸に入れてやる。
反対にドフラミンゴの心臓はローの胸に入れられた。
「へへっ、これくらいいいだろ?」
「お前な…」
嬉しそうに、しかし悪戯が成功して楽しそうに笑うローを見つめながら、ドフラミンゴは苦笑を浮かべてその躰を抱きしめてやる。
そこから先の行動は早かった。
いつもは奉仕される側のドフラミンゴだが、ローの躰を慣らす為に丁寧な愛撫を加えていく。
次々と与える刺激にビクビクと肌を震わせて反応を返してくるローが可愛らしいと思えてしまうのだから、ドフラミンゴは頭の片隅で警鐘を聞いたような気がした。
「はっ、はぁ…っ」
次第に甘く濡れていくローの声を聞いていたいドフラミンゴは、その愛撫も過熱していく。
「本当に初めてなのか?」
「当たり前だ」
お前以外は興味がないと伝えてくるローに、ドフラミンゴの支配欲が満たされていく。
撫でる手に吸いつくようなきめ細やかさを楽しませるローの肌は、今まで関係を持ってきたどの女よりも触り心地が好かった。
一度ローに口づけたドフラミンゴは、その肌の感触を確かめるように直接唇で触れていく。
「んっ、ぅっ」
弾力はないものの、ほどよく鍛えられたローの肌は、その感触を楽しませてくれる。
余すところなく肌を楽しんだドフラミンゴは、十分に慣らしたローの胎内に欲を侵入させていった。
「あっ、ああっ、ドフラ…ぁっ」
「意外に入るものだな」
解したとはいえ、ローの中はまだきつく、そして熱くドフラミンゴを銜え込んでいた。
傷つけないようにゆっくり動いてやると、ローの声が甘い泣き声のように変わっていく。
胸に伝わる速すぎる鼓動は、ローがそれほど緊張しているのかと、ドフラミンゴは微かに笑った。
もしかしたらローに伝わっているドフラミンゴの心音も、速いものなのかもしれない。
そう思うと、無性にローを自分だけのものにしてしまいたいとドフラミンゴは思った。
「んっ、激し…っ!」
突き動かされる衝動のままにローを掻き抱くと、ドフラミンゴの腕の中で細い躰が淫らに揺れる。
「ロー…」
もうこのまま堕ちてしまうのもいいかもしれない。
ドフラミンゴはそう思いながら、熱いローの唇にキスを落とした。
END