BOOK

□present and present
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 サンタクロースの仕事は夢見る子供たちにプレゼントを配る事。

 解っていた事だが、あまりにも多すぎるプレゼントの量と、まだこの街ですら配りきれていない現実にローは頭を悩ませる。

 コラソンの能力は侵入するには向いているのだが、その方法が色々とおかしい。

 何も律儀に煙突から入らなくてもいいと思うし、煙突がない家は鍵を器用に開けて窓から入っている。

 窓から入れるのなら、はじめからそうしてもらいたい。

 煤で汚れた顔を袖で拭いながらローは溜め息を吐き出した。

 気になるのは残りの時間と、プレゼントが入っている袋の仕組みだった。

 かなりの量のプレゼントを配っているが、その袋の大きさは変わらない。

 試しにいくつかのプレゼントを袋に手を突っ込んで選ばせてもらったが、何個プレゼントを出してもそれが尽きる事はなかった。

 切り裂いて仕組みを調べてみたいものだが、それをしてしまうと二度と元には戻らないのだろうという考えが頭にある。

 きっとそれはそういうものなのだろう。

 次に見えた小さな家に、窓から部屋の中を見つめたローは、今度は自分だけが行ってみると言ってコラソンから袋を受け取った。



「シャンブルズ!」



 声と共にソリからローの姿が消えた。



「…なんか、あいつの方がサンタクロースに向いてるんじゃね?」



 コラソンはそう呟きながら、窓の外からローの行動を見守った。

 子供と大人の境目にいるロー。

 早熟なローだが、コラソンからしてみればまだまだ子供であることは変わりないし、大人になってもプレゼントを与えてやりたいと思う。

 その時はサンタクロースとしてではなく、1人の人間としてだが。

 戻ってきたローを笑顔で迎えたコラソンは、その頭を抱き寄せて癖のある髪に静かにキスを落とした。



「ククッ。似合いの物を置いてきてやった」



 楽しそうに笑うローを見つめたコラソンは、窓の外から部屋で眠る赤髪の少年のベッドの横を見てぽかんと口を開く。

 今までにない大きさを誇る包み紙。

 その中身が何か、自分が選んでないから解らないが、望んだ物を出してくれる袋から出てくる物なのだから、ローはその子に似合うと思ったプレゼントを出したのだろう。

 手綱を握り締めてトナカイを再び空へ走らせると、腕を組んだローがずっと感じていた疑問を口に出した。



「こんなにゆっくりで、全世界の子供にプレゼントを配りきることが出来るのか?」



 ローの問いは尤もだが、可愛らしい勘違いにコラソンは口許に笑みを浮かべた。



「安心しろ。おれの担当はこの街だけだから、朝までには十分過ぎる時間がある」



 コラソンの答えに納得して前を見つめたローだが、何か引っ掛かって言われた言葉を反復した。



「担当はこの街? ってことは、他にもサンタクロースがいるってことか?」



「そうだ。他のサンタクロースが誰か、気になるか?」



 意味深長なコラソンの問いかけに、そう言われたら聞きたくなるとローは無言で頷いてみせる。

 コラソンの顔が悪戯を思いついた少年のような笑みに変わった。



「ここから北の大きな都市はドフィ、南の島はグラディウス。東はディアマンテ、西はラオG。更にその隣の国からは…」



「待って待って待って! それって…」



 次から次と挙げられるファミリーの名前に、頭の整理がつかないローはコラソンを見上げた。



「おれたちファミリーは代々、この時期だけサンタクロースをやっている」



 子供みたいに目を輝かせながら衝撃的な事実を伝えてきたコラソンに、ローはクラクラとした目眩を覚えた。

 そして思い浮かんだ考えを言葉にした。



「まさか…、右腕って…」



「クスッ。お前の能力はプレゼントを配るには最適だな!」



 さっき目にして核心したと、楽しそうに笑うコラソンに、ローは頭を抱えた。

 何も自分はサンタクロースになる為に毎日勉強や修行をしている訳ではない。

 そもそも、ギャーギャーと煩い子供は嫌いだし、何も考えなしで行動をする馬鹿はもっと嫌いだ。

 ローは肩を震わせながら俯いていると、そんな心境を理解してなのか、コラソンはあやすように背中を撫でながらクスリと笑った。



「子供たちがどんな暮らしをして、何を思い、何を感じてどう生きて、それからプレゼントを受け取った後の反応を観察して人の心を知るのも、自分の成長に繋がるもんだぞ、ロー」



 世の中には色んな考えがあるのだから、それに少しでも触れることで色んな機転を養うのも大事な事だと、そう伝えてくるコラソンに、ローはそれなら仕方がないと小さな笑みを浮かべた。

 事実、ドフラミンゴは人の上に立つ人間として観察力には優れているし、交渉の場ではその場に合わせた話術で巧みに人を操っている。

 人との会話は苦手だが、観察は好きだ。

 ローはそう考え直して手綱を握った。
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