BOOK

□好き好きキスして愛してダーリン
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「な、コラさん。いい加減に覚悟決めろよ」



 じりじりと追いつめるように身体を擦り寄せてくるローに、コラソンは呆れたように溜め息を吐き出しながらいつもと同じ答えを口にした。



「駄目なもんは駄目だ!」



 何を言われてもそれだけは駄目だと、コラソンは首を縦に振らない。

 立ち寄った島で数日振りに野宿から解放された2人は、小さな宿で簡単な食事を済ませた後、風呂にも入ってさぁ寝ようとした矢先のローの行動。

 ベッドは2つあるのだから、今日は寒さに身を寄せ合って眠る必要もない。

 空いているベッドには見向きもせず、当たり前というように自分が腰かけたベッドに寄ってきて膝にちょこんと座るロー。

 成長するにつれて柔らかくなっていくローの肢体に、コラソンは意識しないように寝酒を呷る。



「ちゅーはしてくれるのに…」



「ぶ…っ!!」



 口に入った酒は、コラソンの口から思い切り噴き出された。

 ローは近くにあったティッシュを手に取ると、汚れてしまったコラソンの口を拭ってやる。



「そ…そそ、それはっ、お前がキスしなきゃ寝ないって、散々駄々こねるからだろっ!!」



 かあぁっと顔を赤く染めたコラソンに、ローはきょとんとしながら首を傾げる。



「たまに舌入ってくる時あるけど…」



 そんなキスはまだ知らなかったと、ローがコラソンを見つめる。



「あ、あ、あ、あれは…っ!!」



「あれは?」



 あたふたと慌てるコラソンが見ていて楽しい。

 更に身を寄せてコラソンに抱きつくと、面白いくらいに心拍数が上がるのをローは感じ取る。

 何かを言いたげなコラソンがローの視線にぐっと息を飲んだ。

 触れ合う柔らかく温かいローの唇に、つい抑えが利かなくなったなどと、誰が言えようか。

 ローの身体が目的で誘拐紛いのことをしてファミリーから抜け出した訳ではない。

 ただ放っておけなかったのだ。



「コラさん。おれ、あれから胸もだいぶ大きくなったよ?」



「…っ、だからなんだっ!?」



 あれは誤算だった。

 ローを蝕んでいた病は、身体を治すと同時に彼を彼女に変えた。

 カナヅチになるのは己の身をもって知っていたが、まさか性別が入れ替わるだなどと思いもしない。

 想定外だと、コラソンは抱きつくローの肩を掴んで自分から引き離す。



「愛してるって言ったじゃん」



 だったら何を躊躇うことがあるのかと、引き離そうと肩に置かれたコラソンの腕を掴まえてじっと見つめる。



「あ、あれは…だな…っ」



「嘘だったのか?」



 おれは今でも信じているのにと、ローの目が寂しそうに揺れる。

 泣き出してしまいたいっ!

 コラソンはローの視線を受けながら、耐えきれずに目を逸らした。



「…嘘じゃねェ。だがな、ロー。あの時と今とでは状況が違うだろう?」



 だからその身体で無防備に抱きついてくるもんじゃないと、コラソンはローに言い聞かせる。



「コラさん…。女より男の方が好きなのか?」



「なんでそうなるんだよっ!!」



 昔に比べたらスキンシップは増えた方だが、それはローからコラソンに近づくからだ。

 あれから明らかに避けられているような感覚に、ローは訝しげな視線を送る。

 男だった時の方がよりコラソンに触れてもらえていた。



「だったら、なんでおれを遠ざけるんだよ」



 おれにはコラさんしかいないし、女になった時は驚いたけど、これからもずっと一緒にいられると思った時は嬉しかったと、ローはそう伝える。

 一途すぎる想いに、どうしてその対象が自分なのだろうとコラソンは項垂れた。



「ロー。おれ以外にも、他に若くていい奴がいっぱいいるだろうが…」



 吐き出すように繋いだコラソンの言葉に、ローが静かに止めを刺した。



「おれに話しかけたり近づいたりしてくる男、有無を言わせず片っ端からコラさんがボコボコに蹴り飛ばしていってるのに」



 そうだった。

 ローに近づくどこの馬の骨とも知れない男は、今まで全て蹴り飛ばしてきたんだった。

 ローに悪い虫が付くのは嫌だった。

 思い返せば、ローに近づく全ての男を蹴り飛ばしてきたのだから、彼女に男が触れたことはない。

 そのくせ自分といえば、ねだられるのを断ることが出来ずに毎日キスはしているし、隙あらば寝床に潜り込んで抱きついてくるローを好きにしている。



「別に怒っちゃいねぇよ。おれ、コラさん以外はどうでもいいし」



 それもどうかと、コラソンは更に頭を悩ませる。



「だからなぁ、コラさん。いい加減に覚悟決めておれを抱いてよ」



「だーめーだっ!」



 そして冒頭に戻ったローの言葉に、やはりコラソンは同じように答えを返した。

 ずっと家族のように、自分の子供のように接していたのだから、ローを抱く気などコラソンはなかった。



「ちゅーはすんのにーっ!」



「それはそれっ、これはこれだっ!」



 拗ねて抱きつこうとするローを、腕に力を込めながらコラソンは彼女の動きを止める。

 キスはしても一線を越える気はない。

 生殺し状態だが、良心がそれを許さなかった。



「舌入ってくんの、あれ気持ちいいから好きなんだけど…」



 ぽつりと呟かれた言葉に、思わずコラソンの腕の力が弱まる。

 その隙を見逃さなかったローが、ここぞとばかりにコラソンにしがみついた。



「…もうこれからはお前にキスもしない」



 だから離れろと、抱きつくローの頭をポンポンと撫でながらコラソンは伝える。



「───ヤダっ!!」



 そんなのはもう堪えられないと、ローが更に力を込めてコラソンにしがみつく。

 もう失うのは嫌だと、微かに震えながら抱きつくローに、コラソンは困ったようにその頭を撫でてやった。



「ロー…」



「コラさんがしてくれないならっ、おれ、他の人にしてもらうからっ!」



 ついにローが攻撃に出る。



「お前な…」



 駄々をこねられても仕方がないし、それを受け入れてやる気はない。

 落ちつかせるように背中を撫でてやると、ふるふると身体を震わせたローが更に言葉を紡ぐ。



「おれ、本気だからなっ!」



 見上げてきたローの目が潤んでいるのを見て、コラソンの鼓動が跳ね上がった。



「どこの誰とも知らない奴に触れられて、お前は平気なのか?」



 諭すようなコラソンの言葉はもっともで、想像すらしたくないとローは口を結ぶ。

 けれど、もうこの気持ちに収拾がつかないローは思い当たった人物の名前を口に出した。



「…ドフラミンゴにしてもらう」



 紡ぎ出した人物の名前は、コラソンにとっては禁句だったのだろう。

 目の色の変わったコラソンがローを見つめる。



「絶対に許さねェぞ…」



 それこそ何をされたものか解ったものじゃない。

 何の為にアイツから身を隠して暮らしているのか解っているのかと、怒りを含ませたコラソンの声が低くローに伝わる。

 その勢いにローは身を竦ませたが、もう引き返せないと、勢いに任せてコラソンにキスをした。

 触れた唇の温かさに、コラソンはおとなしく目を閉じてローを抱きしめてやった。



「コラさん…」



 触れるだけのキスを交わしたローがコラソンを見上げて首に腕を絡める。



「後悔しないな?」



「うん」



 どれだけ突き放しても、これから先ローは自分だけを追ってくるだろうし、思い通りにならないのならいつ自棄を起こすか解らない。

 自分自身だってローに近づく男を無意識に遠ざけていたのだから、彼女を手放したくないのだろう。

 この想いを受け入れるのは癪だが、こんなにも必死に求めてくるローに、コラソンはついに折れた。



「おれでいいんだな?」



「ん、コラさんがいい」



 ふにゃりと泣き出しそうな笑顔を浮かべたローが、再びコラソンにキスをする。

 ローの頭を抱き寄せたコラソンが、触れる唇の間から舌を差し入れて熱い彼女の口内を乱していく。

 まだ慣れていないローは、そのキスに頭の芯がクラクラとするのを覚えた。



「後、最後に…」



「…まだあんの?」



 離れた唇を名残惜しそうに見つめると、コラソンが熱の籠った目で見つめていることに気づく。



「泣いて嫌だと言っても、途中で止める自信なんかおれはないからな」



 真剣ながらもどこか恥ずかしそうに伝えるコラソンに、ローは嬉しそうに微笑んだ。



「うん。最後までして…」



 その言葉を聞いて、コラソンはローにキスを落とし、柔らかい身体をベッドに優しく押し倒していく。
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