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□お菓子と悪戯と 4
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「Trick yet Treat! フッフッフッ」



「ククッ、成長したじゃねェか。だが断る!」



「早ェな、オイ!」



 今日はハロウィン。

 長い廊下を何処かに向かって歩くローを見つけ、ドフラミンゴは彼に冒頭の言葉を投げかけたのだが、返ってきたのは予想した通りの言葉だった。



「冷てェじゃねェか。おれとお前の仲だろ? 今回は菓子はいいから悪戯させろよ、ロー」



「頭沸いてんのか、ドフラミンゴ? ハロウィンには菓子を貰うってのが定番だろうがよ」



 相変わらず口が悪い。

 去年のことを思い出したドフラミンゴは大袈裟に肩を竦めてやる。



「お前、そう言って去年はマスタード入りパンプキンパイを食わせたくせに」



「おれは菓子をくれたら悪戯するって、はじめに言っただろ?」



 ああ言えばこう言う。

 埒が明かない。

 今年はとにかくローに悪戯をしてやりたかった。

 何せ、いつだって彼に好き放題されているのだから。



「Trick but Treat! なァ、ドフラミンゴ。菓子をくれよ」



 ドフラミンゴがどうしたものかと考えていると、ローは小首を傾げて手を差し出してきた。

 どうすれば相手に可愛らしく見られるのか。

 知っていてやっているのだから、ドフラミンゴは小悪魔なローにいつだって騙されてしまう。

 それよりもローの言う「Trick but Treat」はどういった意味だったか。

 なァ、早くれよと、甘えた声で見上げてくるローにドフラミンゴの頭がクラクラとする。

 そんなに欲しいのなら今すぐおれを食わせてやると言いたいが、ドフラミンゴは楽しみは後で取っておく男であった。



「ほらよ。今日の為に特別に取り寄せた菓子だ」



 結局はこうなるし、ドフラミンゴはローに弱い。

 可愛らしくラッピングした菓子をローの手のひらに置いてやると、それはそれはとても美しく彼は笑いました。



「クックックッ。菓子をくれても悪戯をする。今日の悪戯ははじめから決定していた」



 能力を使って鬼哭を呼び寄せたロー。

 抜刀された鬼哭に、ドフラミンゴは構える。



「壁に掛けられている鹿の剥製の代わりに、今日1日首を掛けられるってのはどうだ?」



「させるかァっ!」



 とんでもないことを言い出したものだ。

 血の掟を理解しているのだろうか。

 だったらと、ドフラミンゴは黒い猫耳と黒い尻尾を糸で造り出し、ローの前で指を操った。

 鬼哭が振るわれる度に城の壁が斬られていく。



「フッ…。めちゃくちゃにしやがって…」



「どうせ後で簡単にくっつく」



 楽しそうに笑うドフラミンゴとは違い、ローの呼吸は上がりはじめていた。

 持久戦に持ち込めば簡単に勝てることを知っているドフラミンゴは、ローの攻撃をだらだらと躱しながら次々に猫耳や尻尾を着けてやる。

 オマケとばかりにローの服を切り刻んで、変わりにもこもこした黒いブラと黒いショートパンツを着せてやるドフラミンゴ。



「うぎゃっ! 何しやがる、てめェ!」



「フッフッフ。似合ってるぞ、ロー」



 動きが止まったローの手足に、ピンク色の肉球と柔らかい爪が付いた大きな手袋と靴下を追加で履かせてやり、ドフラミンゴはニヤリと笑う。



「…そろそろ喰っちまうか」



「なっ!? やめ…」



 自分で着せたとはいえ、思いもよらない破壊力を持ったローの姿に舌なめずりをしたドフラミンゴは、後退りする彼との距離を詰めていった。

 手を伸ばしてローを捕まえようとした刹那、ドフラミンゴの手に銃弾が放たれる。



「フッ。随分と怖い顔だな、コラソン」



「………」



「コラさん!」



 銃弾を手で受け止めたドフラミンゴが、背後にローを庇ったコラソンを見つめ、不敵に笑った。

 コラソンは無言でドフラミンゴを睨みつけている。



「何か用か?」



 コラソンは答えない。



「ローに用があるのか?」



 ドフラミンゴが質問を変えると、コラソンが2度手を叩いた。



「いやいや、お前。目の前にいるんだから頷けよ! ってか、喋れるんだろっ!? ヴェルゴから聞いたぞ」



 何故ローだけとしか喋らないとドフラミンゴが質問を重ねる。

 口を開こうとしないコラソンは少しだけ考えた後、紙とペンを取り出して字を書きはじめた。



「頑なだな、お前…って、オイ!」



「コラさん、早く部屋に行こうぜ」



 お世辞にも上手いとは言えない字で書かれた紙を受け取ったドフラミンゴは、それを読む前にコラソンに抱きつくローを見て声を荒らげた。

 ローはコラソンに抱きつき、甘えるように身体を擦り寄せている。

 見たこともない優しい笑顔でローの頭や頬を撫でるコラソン。



「ああ、そうだ。おれからの悪戯は、これに変えてやる」



 泣きたくなるほど綺麗な笑みを浮かべたローが、コラソンの首に腕を絡ませて引き寄せ、ドフラミンゴの目の前で口づけを交わした。

 見せつけられた現実に、ドフラミンゴの身体は硬直して動けない。

 その隙に、指を絡ませて手を繋ぎながら、2人はドフラミンゴの前から姿を消した。



「ロー…。お前…、それは悪戯じゃなくて、嫌がらせだ…」



 ローに斬られた壁から入ってきたすきま風が、コラソンの書いた紙を飛ばしていく。

 肩を落としたドフラミンゴは、深くため息を吐いたのだった。















『おれはローいがいきょうみない』










END

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