pixiv log
□恋を愛に変えようか
1ページ/1ページ
何が欲しいとか、どうして欲しいとか。
それは本人に聞いてみればいい事なのだけれども、今回はそうもいかない。
7月15日、今日は大好きな人の誕生日な訳で。
1ヶ月以上も前から色々と計画を立てていたローだが、いざ当日となれば心臓がばくばくと音を鳴らして緊張していた。
去年や一昨年は普通にプレゼントを渡して、手作り料理で盛り上がっていたはず。
それなのに今年はどうしてここまで緊張しているのか。
それは、恋人同士になって初めて迎えるコラソンの誕生日だからであった。
ケーキは去年以上に上手く焼けた。
料理も準備万端だ。
後はコラソンが仕事から帰ってくるのを待つだけである。
今年はどのタイミングでプレゼントを渡そうか。
テーブルのセッティングを終えると、タイミングを見計らったようにコラソンが帰ってくる。
ローは慌ててポケットの中にプレゼントを隠し、コラソンを迎えにいった。
「コラさん、お帰り」
ローが迎えるとコラソンは破顔し、その細い身体を力いっぱい抱きしめてキスを繰り返す。
「ただいま、ロー! 待たせたな!」
見つめられる視線に、ローの鼓動が高鳴る。
大きな手を引きながらテーブルまで連れていくと、そこでまたローはコラソンに抱きしめられた。
「何だよ、ロー。おれの好きなものばっかじゃねェか」
「…誕生日だから」
痛いくらいの抱擁は、コラソンが体重をかけたことでローがよろけてしまい、そこで終わりになった。
テーブルに並べられた料理を次から次に食べるコラソンに、ローは静かに笑う。
他愛もない会話をしているが、ローはどの時点でプレゼントを渡そうか悩んでいる為、あまり聞いていない。
その間にも料理は全てなくなってしまい、ローは冷蔵庫から手作りケーキとワインを取り出した。
ケーキはスポンジの間に様々なフルーツをカスタードクリームで包み込んである。
その周囲を生クリームで覆い、上部の縁を苺で飾った。
真ん中はチョコレートで、コラソンを祝う文字がローの手で書かれてある。
「お前、器用だよな」
「コラさんが不器用なだけだろ?」
ケーキに蝋燭を差し、火を灯して部屋の明かりを消す。
吹き消す瞬間、コラソンの笑顔がローには一瞬だけ泣き出しそうに見えた。
「コラさん、ハッピーバースデー」
真っ暗な部屋の中でローの声が響く。
部屋の明かりをつけると、コラソンは泣いていた。
「なっ!? なに泣いてんだよっ!」
ローが椅子から立って慌ててコラソンの前に行くと、泣き顔を笑顔に変えながら力強く抱きしめてくる。
「…コラさん?」
ローを抱きしめるコラソンの腕は震えている。
「だって…、だってよお。おれ、めちゃくちゃ嬉しくて…」
ぼろぼろに泣きながら、それでも笑顔で色んな想いをローに伝えるコラソン。
いつも傍に居てくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
これからもずっと共に生きたいと、コラソンの願いはローと同じものだった。
「歳とると、涙脆くなるんだな、コラさん」
「うるせェよ…」
コラソンの流す涙を指の腹で拭ってやり、ローが笑う。
このタイミングでプレゼントを渡してしまおうか。
ローはポケットの中から綺麗に包装されたプレゼントを取り出す。
「これ、誕生日プレゼント」
黒い包装紙に深紅のリボン。
ゴールドのシールには[Happy Birthday]の文字。
「開けていいか?」
「ああ…」
リボンをほどき、包装紙を破らないように取り去る。
黒い箱を開けると、それは部屋の明かりに反射してキラキラと光った。
1ヶ月前から注文していたそれは、コラソンとローの名前が彫られた腕時計だった。
コラソンは腕時計を取り、自分の腕に着ける。
「ロー…、ありがとうな!」
そしてキスをもうひとつ。
優しいキスが終わると、コラソンはリボンを手にして、ローにニコリと笑った。
「な、何?」
コラソンはリボンをローの首に巻き、喉の前で結ぶ。
「誕生日プレゼント、お前自身もくれるんだろ?」
「え…」
身体を引き寄せられ、ローはコラソンの腕の中に閉じ込められた。
「ロー…。俺にお前を愛させてくれよ」
耳許で囁かれる声に、ローの心臓が音を立てて跳ね上がる。
「コラ…さん…?」
今日という日が終わるまで数時間。
さて、どうしようか。
END