BOOK
□present and present
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「スマン、ロー。クリスマスは一緒にいてやりたいが、24日の夜から25日の朝までは一緒にいてやれないんだ」
サンタクロースの衣装に身を包んだコラソンがローに手を合わせながら伝える。
その姿を訝しげに見つめていたローは、何かクリスマス限定の仕事でも入ったのかとコラソンを見上げた。
「ロー。黙っていたんだが、おれは実はサンタクロースなんだ」
「…は?」
白い袋を肩に抱えて白い付け髭を着けたコラソンに、ローは言葉を選んで口を開いた。
「ああ…。短期バイトだろ? おれ、おとなしく待ってるから大丈夫」
だから心配いらないと、それでもどこか拗ねたようなローの表情にコラソンは頭を悩ませた。
日を追うごとに可愛らしさを魅せるローを1人きりにして大丈夫なのだろうか。
帰ってきていなくなっていたらどうしようか。
かといって、年に一度のこの仕事を放り出す訳にはいかず、コラソンは行ってらっしゃいと手を振るローを袋を担いでいないもう片方の肩へ乗せた。
「なっ、なんだっ?」
「クスッ。一緒に連れていってやる、ロー」
それならば誰かに拐われる心配もないし、ずっと一緒にいられるから一石二鳥だと、コラソンは屋上の扉を開けた。
「え…、なに…これ…」
目の前に広がる景色に言葉を失うロー。
昼から降り始めた雪は、夜になった今では一面を銀色の世界に変えている。
街の灯りが頼りなげに見える中、それは辺りを明るく照らし出していた。
「フッフッフ、驚いたか、ロー?」
「や、コラさん。その笑い方やめて」
ある人物を思い出してしまうからと、ローはそう言いながら目の前の動物を見つめる。
「こいつはルドルフ。赤い鼻が光って夜道を照らしてくれるから、頼りになるんだ」
コラソンはそう言いながら、先頭に繋がれた赤い鼻のトナカイの頭を撫でた。
「で、ダッシャーにダンサー、プランサーにヴィクゼン。コメットにキューピッド」
次々にトナカイの頭を撫でながら紹介をしていくコラソンに、ローがそれを止めた。
「じゃ、じゃあ…、最後尾のこの2頭は、まさか、ドナーにブリッツェン?」
「クスッ、そうだ」
まさか、いや、そんな。
絵本の世界に生きるトナカイたちが目の前にいるとは信じられない。
でも、当たり前のようにソリを引く準備をしているトナカイを見て、ローは言葉を紡げないでいた。
毎年クリスマスに粋なプレゼントを置いていってくれていたのがコラソンということは気づいていたが、しかしそれが本物のサンタクロースで、しかもそのサンタクロースがコラソンだという現実は、実物のトナカイを目の前にしてもまだローは信じられないでいた。
起きたと思っていたが本当はまだ寝ているのだろうか。
試しに自分の頬を思いっきりつねってみたら、あまりの痛さに涙が浮かんだ。
「さ、時間がない。行くぞ、ロー」
コラソンはそう言いながらローをソリに乗せて、その隣に座って手綱を握り締めた。
合図と共にトナカイたちが地面を蹴った。
ぐんぐんと近づいてくる屋上の終わりに、このままでは落下して人生が終わってしまうと思ったローはきつく目を瞑って隣のコラソンにしがみついた。
コラソンは何も言わずにローの頭を優しく撫でている。
ふわりとした浮遊感を覚え、それでも人生の終わりがこの優しく頭を撫でてくれるコラソンと一緒なら、別にそれも悪くないかと目を薄く開けた時、ローの目の前に空を駈けるトナカイの背中が映っていた。
「う、嘘…」
やっぱりこれは夢なんだろう。
それとも死んでしまったから天に向かっているのだろうか。
ローは隣で笑うコラソンの頬に手を伸ばし、そして思いっきりつねってやった。
「いっ! なにするんだっ!!」
ローのいきなりの行動に驚いたコラソンは彼の手を払い、その頭に拳骨を落とす。
「痛い…」
「おれも痛ェよ!」
頭を押さえるローに、頬を擦るコラソン。
「夢じゃ…ない?」
「当たり前だろうっ?」
だから今年からは仕事を手伝えと肩を引き寄せたコラソンに、ローは笑みを浮かべながら渡されたもう片方の手綱を握った。