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□こんなクリスマスがあってもいいじゃないか
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良い子にしていればサンタが枕元にクリスマスプレゼントを置いていってくれるだって?
そんなのは迷信だ。
現に起きた自分の枕元には、プレゼントも何もなかった。
今日は何日だったか。
サンタとやらは25日の朝には、クリスマスプレゼントやらを枕元に置いていくのではなかっただろうか。
それとも、自分は良い子ではなかったのか?
いや、違う。
主でもある彼の右腕になるべく、辛い修行も医術の勉強も毎日頑張っていたのだ。
ただ思いつくのは、パンと梅干しだけは嫌って食べなかったこと。
けれど、この2つのことだけでプレゼントがお預けになってしまうとか、どれだけ良い子のハードルが高いんだよと思いながら、枕を引っくり返したローはぶつぶつと文句を述べた。
あわてんぼうのサンタクロースだったらクリスマス前に来ているはずだし、プレゼントも忘れて帰ろうとしていたはず。
なら、今年のあわてんぼうのサンタクロースは遅れてやって来るのか、はたまた本気でプレゼントを忘れているのではないかとローは頭を悩ませる。
別に欲しいものは欲しいと言えば、自分の主である彼は何だって与えてくれるが、見知らぬサンタとやらが自分の為に用意しているプレゼントがどんなものなのか純粋に興味があったロー。
ないのなら仕方がないと、ローがベッドから下りた時、扉の叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
短い返事を扉の向こうに伝えてやると、ガチャリと音を立てて扉が開いて主が姿を見せる。
「おはよう、ドフラミンゴ」
「おはよう。メリークリスマス、ロー!」
やはり今日がクリスマスで間違いはなかったらしい。
テンションの高いドフラミンゴを見上げたローは、小さく溜め息を吐き出した。
「どうした? 朝からやけに暗いじゃねェか」
子供のくせに低血圧のローの寝起きはいつも悪かったが、それにしても今日は不機嫌さを醸し出しすぎている。
ドフラミンゴはローに近づいて彼の顔を覗き込んでやると、ぷいっと顔を逸らしたローがまた溜め息を吐いた。
「まぁいい、顔を洗ったら広間に来い! 皆お前が来るのを待っているぞ」
「…なんで?」
自分を待つ必要がどこにあるのか解らないロー。
いつも朝の遅いローは、朝食も皆より後で食べる為、誰も自分を待つ必要はないはず。
訝しげにドフラミンゴを見上げると、彼の口許が笑みに歪められた。
「クリスマスパーティー。皆が揃うのを待っている」
だから早く身支度を整えろと、そうドフラミンゴに言われたローは慌てて顔を洗いにいった。
「メリークリスマースっ!!」
パァンっと鳴らされるクラッカーが広間に響き、飛び出した色鮮やかなテープや紙切れがローの身体を包んだ。
「なにすんだっ!」
一斉に自分に向けられて放たれたクラッカーの嵐に、驚いたローが声を上げる。
お蔭で眠気も何もかも醒めてしまった。
クスクスという笑い声に悪態をつきながら指定の席に座ると、まだ朝だというのに豪華な食事が並べはじめられた。
温かな湯気と共に香る料理は目にも鮮やかで、食欲をそそる。
目につくそれに手を伸ばして頬張ると、見た目と違わず美味しく、いつも以上にローの食事のペースが早まる。
大人たちは優雅にワインなどを飲みながら、談笑を交わして食事をしている。
ローと他の子供たちだけは料理に夢中だった。
限界まで食べたローは、膨らんだ腹を落ち着かせるように軽く撫でる。
まだ半分も減っていない食卓に並べられた料理は、もう見たくなかった。
チラリと広間を見渡すと、飾りつけられた大きなクリスマスツリーの下に色々とラッピングされた箱が置かれてあるのに気づく。
昨日見た時には、まだなかったそれ。
不思議に思ってその箱とドフラミンゴを見比べていると、ローの視線に気づいた彼が楽しそうに笑った。
「お前たちへのクリスマスプレゼントだ。好きに選べよ」
その声と共にクリスマスツリーの下に駆け出すベビー5やバッファローたち。
「わたし、これーっ!」
遅れたローが青い包み紙でラッピングされた箱を手に取ると、子供たちは次々とラッピングを破いて中身を確認していく。
「あ、ヒーローセットだすやん!」
「わたし、お医者さんごっこのセットー」
それぞれがプレゼントを確認して喜びの声を上げていると、何かに気がついたドフラミンゴが隣に座るコラソンの足を蹴りつけた。
「おいっ! なんでピンクの包み紙に医療セットが入っているんだっ!?」
「すまんっ。ドジッた…」
歓声を上げながら席に戻って礼を告げてくる子供たちにドフラミンゴは苦笑を浮かべ、まだ包み紙を開けていないローを見守る。
ローは綺麗にテープを剥がしてラッピングを解くと、箱の中から贈られたプレゼントの中身を取り出した。
「…しろくま?」
愛らしい姿のぬいぐるみに、思わず笑みが溢れてしまうロー。
こんなプレゼントは初めてだった。
まるで女の子にプレゼントされる予定だったものが、間違って手の中にあるようで、ローはその倒錯感に浮かんだ笑みが崩れない。
「あー…、今年のサンタクロースはあわてんぼうだったみたいだな…」
気まずそうに言い放つドフラミンゴに、ローは彼に歩み寄ってしろくまをずいっと目の前に近づけてやる。
「でも、これも嬉しい…」
にっこりと笑ったローに、ドフラミンゴとコラソンが息を飲んだ。
「この国のサンタは、枕元じゃなく、ツリーの下にプレゼントを置いていくんだな」
ぽつりと呟いたローをドフラミンゴは抱き上げ、膝の上に乗せてやる。
ローが朝不機嫌さを醸し出していたのは、きっと枕元にプレゼントが置かれていなかったからだろう。
子供らしい一面もちゃんとあることを嬉しく思い、ドフラミンゴはローの頭をくしゃくしゃと撫でた。
来年は枕元とクリスマスツリーの下にプレゼントを置いてやろうと、そう思いながら。
END