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□クリスマスを取り戻せ!
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 あと数日でクリスマスであり、あと数日で一人きりのクリスマスイブも確定な訳で。
 今年こそは心に決めた相手と過ごしたいと考えているのは、何もおれだけではないだろう。
 去年も一昨年も、おれの好きな子は仕事でドフィと共に年明けまで帰らなかった。
 その前はおれが忙しくて――というか、ちょっと可愛らしいドジをしたら顧客とドフィの逆鱗に触れてしまって、春になるまで帰れなかった。
 だから今年こそはと意気込んでローの部屋の前に来たんだが、洩れ聞こえる艶めかしい声に扉をノックしようとした手が止まってしまう。
「あっ、ん。そこ、もっと――」
 明らかに声の主はローだ。
 いや、そもそもローの部屋なのだから、ローの声が聞こえるのは当たり前の話だ。
 だがしかし――
「ああっ、あっ、あっ、イイ……」
 情事の最中だとしても、ローが喘がされているという円現状がおれには理解出来ないでいる。
 そりゃ、ローも男の子だし、もしかしなくても彼女の一人や二人はいるのかもしれねェ。
 それならば、喘がされているという状況がおれの頭をますますパニックにしてしまう訳で。
「ドフィ――ッ、や、それ痛ェ……」
「でも、気持ちいいんだろ?」
 更に更に、続いて聞かされたローの喘ぎ声と相手の声に、おれの頭からボンッと煙が上がった。
「許さーーーんっ! おれのローに何してやがる」
 蹴り破る勢いで扉を開けて部屋に入ったおれが見たものは、上半身ではあるものの、ベッドの上でうつ伏せになっているロー。
 そしてそのローを跨ぐように乗って、一糸乱れぬ姿で指圧をしているドフィ。
 つまり、ただの指圧マッサージにおれは怒髪天の状態で乗り込んじまった訳で。
「フッ。ナニを考えてたんだ?」
 ニヤニヤ笑いながらおれの肩を叩き、ドフィは部屋から出て行く。
「コラさん……」
 非常に気まずいのは、おれがエロいことを考えて、おれのローとか口走っちまった所為で――
「男がエロくて何が悪い。じゃなくて! 今年のクリスマス、一人きりってのも寂しいんで付き合ってください!」
 差しだした手は、苦笑したローに手を添えられる。
「おれは今年だけじゃなく、来年もこれから先も、コラさんとずっと一緒がいいけど?」
 そんなこんなで、可愛らしい恋人が出来ました。



 今までが今までだから、恋人になったからといって、いきなり何かしらの進展がある訳でもなく。
 もしかしたら手を繋ぎたいんだろうなとか、もしかしたら抱きしめたいんだろうなとか、もしかしたらキスしたいんじゃないだろうかとか。
 そんな雰囲気を感じることが増えてきた。
 解るよ、だっておれもコラさんと同じ男だし。
 でも、だからこそ思う。
 同じ男ならもっと潔くガバッとやって欲しいと!
「なあ、コラさん」
 今年のクリスマスはイブから後夜祭まで、三日間をファミリーで祝うことにする。
 などとボスであるドフラミンゴが言うもんだから、初めての長期休暇を与えられたおれとコラさんは、ドフラミンゴの指示で買い出しに来ていた。
 ってか、これって休日出勤だし、時間外手当出してくれ。
「コラさん!」
「お、うおおおぅっ!?」
 先日、恋人になったばかりのコラさんは、さっきからその大きな手をおれの腕に近づけたり、グーパーを繰り返してかなり挙動不審だ。
 冒頭の通り、コラさんは多分、おれと手を繋ぎたいんだろうと思う。
 だが問題は、おれとコラさんの身長差だ。
 コラさんの手をおれの手に重ねようと思えば、おれが手を上に伸ばさなければ届かない。
 抱きしめるにしても、ましてやキスをするにも、立った状態だと何かと不都合があるもんで。
「手が寒い」
 だからおれはそう呟いて、冷えた指先をコラさんの手に触れさせた。
 これで手を繋いでくれなかったら、帰ったらメスして心臓奪ってやる。
「うおっ、冷てェ」
 コラさんの温かい手が、冷えたおれの手を温めてくれる。
「あと、身体も寒い」
「――えっと……」
 夕方にもなれば、繁華街以外の場所の人通りなど皆無だ。
「抱きしめて欲しいんだけど?」
 あざとく見上げて拗ねた顔をしてみれば、ハッと気づいたコラさんがおれを抱きしめてくれる。
 だが、おれの顔はコラさんの腹の位置だ。
「ロー……」
「あと、唇がめちゃくちゃ寒い」
 そう言って上目遣いに見上げると、ほんの少し顔を赤くしたコラさんが、腕を伸ばしたおれを抱き上げた。
「奇遇だな。おれも寒いと思っていたんだ」
 そう言われて触れた唇は、焼けるように熱かった。



「皆、今年も一年ご苦労だった。今日は無礼講だ。楽しんでくれ」
 グラスを持つドフラミンゴの挨拶が終わると、揃ってグラスを持ち上げたファミリーの面々が騒ぎだす。
 立食式のパーティーでもあるから、無礼講と言えども下っ端は気が抜けない。
「新しいグラスを」
「いや、今はいい」
 名前すら知らぬ男が空になったローのグラスを受け取り、次のワインを勧めたが、ローはそれを断るとコラソンの元に向かった。
 普段のもふもふとしたコートにハートのシャツではないコラソンは、スーツを着て髪を上げている。
 それでもメイクはそのままなのがコラソンらしいと言えばそうなのだけれど、服装が変わるだけで雰囲気も違ったように感じた。
 ドキドキとした高揚感にも近い感情を覚えながら、ローはコラソンの隣に立つ。
「コラさん。今日の夜なんだけど」
 ローの言葉にかねてから計画を立てていたコラソンは、同じようにスーツを着せられたローを見下ろして口許を緩めた。
「おれの部屋に来いよ」
 相変わらず無意識なのかは解らないけれど、シャツの前を半分ほど開けさせているローは、上方から見下ろすコラソンの位置からだと、胸や腹までガッツリと見えてしまっている。
 それでなくともローは、ファミリーの中ではまだ背が低い方だ。
 自分以外にも肌を晒しているのは心穏やかではない。
 尤も、既に付き合っているという事実は知れていて、ローが誰のモノであるのかは根回し済みだ。
「眠らせねェから、楽しみにしとけよ」
 コラソンは目を細めて笑い、開けているローのシャツのボタンを一番上だけ残して全て留めてやった。
 言葉の意味をどう捉えようか迷ったローだったが、お互いに子供ではないので、コラソンと同じように笑って見せ、どのタイミングで抜け出そうと模索をはじめた。
「コラソン。それに、ロー」
 だが、全ての計画が台無しになりそうな声は、最悪なことに逃げられない距離で二人にかけられる。
 嫌な予想ほど当たるものだけれど、イブなのだから予想に反して奇跡が起これ。
 そう思いながら振り返ったコラソンとローの前に立っていたのは、案の定このファミリーのボスであり、コラソンの兄であるドフラミンゴだ。
「悪いが……」
「悪いと思うなら他を当たってくれ」
 ドフラミンゴの冒頭の言葉だけで、全ての希望がなくなったことを察したローは、聞きたくないとばかりにドフラミンゴの声を遮る。
「フッ。まあ、そう言ってくれるな。お前たちにしか頼めないことだ。攫われたサンタクロースを救出して欲しい」
「――は?」
「ドフィ……。もうボケたのかよ……」
 信じられないと言う目でドフラミンゴを見た二人は、こめかみに青筋が立つのをハッキリと確認した。
「お前たちファミリーのために雇った能力者だ。世間ではサンタクロースと言われている。子供の頃は何度か世話になっただろ? それは今の先代の能力者の能力だ」
「マジかよ……」
 数年前に代替わりしたというサンタクロースは、何かしらの縁があって、今年はファミリー全員が幸せになれるようなプレゼントを渡す約束になっていたらしい。
「でも、おれはローといられれば幸せだし、今年はプレゼントにローを貰うって決めてるし」
「――コラさん……」
 コラソンとローの二人の世界に薔薇の花が咲きそうな雰囲気になり、ドフラミンゴが慌てて咳払いをして雰囲気を打ち消す。
「だから、だ。お前たち二人だけが幸せなのはフェアじゃねェだろう? クリスマスはファミリー全員が幸せになる。それ以外は許さねェ」
「うわ、最悪」
 信じられないといった顔で、ローはドフラミンゴを見上げる。
 上目遣いで睨まれたところで可愛いだけだと笑ったドフラミンゴは、右手をローの頭上に翳して指を動かしはじめた。
「知ってるか、ロー。お前もそうだが、お前たちファミリー全員が持っている服はおれが作りだした服だ。おれに逆らってみろ。いつどこで素っ裸になるか解らねェぞ、フッフッフッ」
「うわー、最悪っ!」
「それにコラソン。お前も真面目に手伝わなかったら、ローの服を脱がそうと思っても、マトリョーシカのように脱がせても脱がせても脱げない服に変わると思え」
「うわあっ、最低!」
 ドフラミンゴはサンタクロースと呼ばれる能力者が攫われたらしい場所の地図を二人に渡し、フフフと笑いながら去っていく。
 残されたコラソンとローは、地図の場所を見てガクリと肩を落とした。
「どう考えても一日で着ける距離じゃねェし!」
 こうなったらサンタクロースの奇跡を信じるしかない。
 コラソンとローは、ファミリーのアジトから飛びだした。
 
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