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□お菓子と悪戯と 3
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「クソッ! ドフラミンゴのヤロウ!!」



 とある王宮の一室。

 ローはその中でブツブツと文句を言いながら、自ら作ったチョコレートをラッピングしている。



「今年は義務チョコなんだって?」



 隣でその様子を見ていたコラソンは、文句を言いながらも丁寧な動きのローにそう応えた。

 部屋は甘いチョコレートの香りで充満している。

 今日はバレンタイン。

 この国も例に漏れず、1年のお礼を込めて仲間たちにチョコレートを配る風習が根付いていた。

 もちろん、愛する人にチョコレートを渡すのも然り。

 後者はともかく、前者はあくまでも義理であって、必ずしも配らなくてはならないものではない。

 それなのに、この国の国王ときたら、何故だか今年から義務チョコなる令を発したのだ。

 チョコレート産業は大いに喜び、消費者たちは大いに嘆いた。



「そんなことをしなくても、お前はちゃんと作るのにな? ロー」



 コラソンは苦笑を浮かべながら、目の前に積み上げられているチョコレートの山から1粒摘まみ、それを口に入れた。



「あっ。ダメだ、コラさんっ!!」



「…ぅ…!!!?」



 ローの制止の声も虚しく、チョコレートを噛んだコラソンの顔が歪む。



「な、なんだこれ…っ!?」



 割れたチョコレートの中から出てきたドロッとしたものの味に、コラソンはもったいないと思いながらも、それを吐き出した。

 舌に残るその味がミスマッチで、かなり気持ちが悪い。



「たこ焼きソースだから、別に害はねェけど…」



 不味いと思うと、申し訳なさそうに伝えてきたローに、コラソンは近くにあったウイスキーで口を濯いだ。

 そういえばクリスマスには媚薬入りケーキ、ハロウィンにはパンプキンパイに見せかけたマスタードパイを、ローは国王であるドフラミンゴの為に作っていたと、コラソンは思い返す。

 クリスマスケーキはローのミスで入れ替わってしまったので、その日だけは美味しいケーキを食べられただろうが、その日以外は大概不味いと分類されるお菓子を食べさせられているであろう兄を思い、コラソンは小さくため息を吐き出した。



「たまにはまともなものを渡してやったらどうだ?」



 ローをドフラミンゴに渡す気はないが、それでも少しばかりコラソンは兄に同情を思い、癖のある彼の髪に触れる。



「…なんか嫌だ」



「何故だ?」



 くしゃくしゃとローの髪を撫でてやると、髪を懐かせるようにコラソンの手に頭を押しつけた彼が呟く。



「そうだな…。お願いしてくるのなら作ってやってもいい。でも、今回みたいな義務化されたものなんか、ムカつくから特に嫌だ!」



「あー…、まぁ…」



 ローの言いたいことは解らないでもないコラソン。

 多分、今日の夜を迎えるまでに、王宮は凄い量のチョコレートで溢れ返るだろう。

 全国民と、各地に散らばった配下や傘下からのチョコレート。

 菓子は好きな方だが、流石にコラソンもこれには想像するだけで胸焼けがしそうだった。



「1つだけ、まともなのを混ぜてあるから、それで十分だろう?」



 呟かれた声に、コラソンはこちらを見上げていたローを見つめる。



「コラさん。いつもおれが本当に食べてもらいたいのは、アンタだけなんだ」



 だから他のやつらはどうでもいいんだと、伝えられたローの気持ちにコラソンはそれを受け入れ、彼を柔らかく抱きしめた。

 細身のローの身体はコラソンの腕の中に全て収まる。

 いじらしいほど自分だけを想って見つめ続けるローを見ていると、確かに彼の言う通りに他のやつらはどうでもいいように思えてしまうから不思議だと、コラソンはローの顔を上げさせて薄く開いた唇にキスを落とした。



「ロー。愛してる」



「…っな!!」



 不意打ちのコラソンの言葉に瞬く間に顔を赤く染めたロー。

 そういうところも可愛らしいと、コラソンはローをきつく抱きしめた。



「ホワイトデーには、おれもお菓子を作ってみるかな?」



「…コラさん、絶対にドジッてミスしそうだから、おれも一緒に作る」















 王室に足を踏み入れたローは、まだ昼前だというのに部屋の半分を埋めているチョコレートの量に、思い切り顔を顰めた。



「ドフラミンゴ…」



「フッ。来たか、ロー」



 待っていたと、ドフラミンゴはローを自分の座るソファの側に呼び寄せた。

 軽く、それでも重い音を立てたローの足音が、ドフラミンゴの目の前で止まる。



「テメェ…。それ、残さず1人で食い切れよ?」



「………」



 たった1人の人間からチョコレートを貰いたいが故に起こした行動が、今この惨状を生み出していると、ドフラミンゴも気づいているだろう。



「絶対に残すなよ?」



 それなりの気持ちはあるとローはそう伝えながら、綺麗にラッピングした手作りのチョコレートをドフラミンゴの手に押しつけた。

 ラッピングを解いていくドフラミンゴに気づかれないように能力を使うロー。

 スキャンでチョコレートの中身を確認し、ドフラミンゴが摘まもうとしたチョコレートをシャンブルズで入れ替える。



「…ウイスキーボンボンか。美味いな」



「おれが作ったんだから、当たり前だろう?」



 教え込まれたお蔭で料理にも自信がある。



「クリスマスケーキも美味かった」



 告げられた言葉に、あの日はケーキを渡し間違えたミスでえろ…じゃなかった、えらい目に遭ったとローはため息を吐いた後、ドフラミンゴに向かって指を差した。



「おれからのチョコだけじゃなく、他のやつらのチョコも絶対に残すなよ!」



 食べ物は粗末にするなとそう伝えてきたローに、もう既に部屋の半分を埋めているチョコレートの数々を見ながらドフラミンゴは肩を竦めて頷いた。



「ロー。ホワイトデーは期待していろよ?」



「別に、いらねェ…」



 ローはまだこれから他のファミリーたちにも誰かさんのお蔭で義務チョコを配らなくてはいけないからと、皮肉めいたことを言いながらチョコレートの匂いで溢れる部屋を後にした。

 残りの全てはウイスキーボンボンではなく、たこ焼きソースが入ったチョコレートだが、1つはまともなのを渡してやったのだからバレンタインという行事に叶っているだろう。

 早く配り終えて、コラソンには内緒で作っていたとびきりのチョコレートを贈ろう。

 そう思ったローの足取りは軽くなって王宮に響いた。















END

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