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□お菓子と悪戯と 2
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 カシャカシャとリズムよく軽快な音を立てながら泡立てられていく生クリーム。

 キッチンには焼けたケーキのパン生地や、フルーツなどの甘い匂いが漂っていた。

 今年のクリスマスはカスタードケーキにしようと、冷めたパン生地を三層に切り分け、その間に色とりどりのフルーツとカスタードをトッピングして周囲をカスタードで塗り固める。

 コーティングされたカスタードの上を更に薄く生クリームで覆い、一番上はイチゴと生クリームでトッピングをした後、粉雪に見立てたシュガーパウダーを降らせてやった。

 料理は得意だった。

 誰かさんの花嫁修行の一環として付き合わされていたら、その本人よりも上手くなってしまい、これでいつでも嫁に行けると言われたのは古い思い出。

 別に作るのは嫌いではない。

 それを美味しいと言って食べてくれる人がいるのであれば尚更。

 ただ問題がひとつ。

 手料理を食べて欲しいのはたった1人だけなのに、毎回自分の料理は奪い合いになってしまうのだ。

 はぁっと溜め息を吐きつつ、後片づけも終えてケーキを取り出したローは、周囲を窺いながらキッチンから出た。



「フッフッフ。メリークリスマス、ロー」



 瞬間、一番厄介な人物に捕まってしまう。

 予想通りの展開に頭を押さえながら、ローは目の前に立ちはだかる大男を見上げた。



「邪魔だ、ドフラミンゴ」



 これから用があるから退いてくれと、ローはドフラミンゴに告げるが、案の定彼はそれを聞き入れてくれない。

 それどころかドフラミンゴはローの手から手作りのケーキを奪い、彼が届かないように高く持ち上げたのだった。



「あっ! 返せよっ!! それ、コラさんの為に作ったんだからっ!」



 ぴょんぴょんとローは手を伸ばしながら跳ねてみせるが、身長差があるドフラミンゴには到底届くはずもなく、まんまとケーキを奪われてしまう。



「なら余計に返せねぇなァ? ロー、これはおれが貰うぞ」



 ドフラミンゴはそう告げてローの頭を撫でた後、愉快に笑いながらその場所から去っていった。

 暫くそれを見ていたローは、ドフラミンゴの姿が見えなくなった途端に、ニヤリとした笑みを浮かべる。



「なーんてな。残念だったなァ、ドフラミンゴ…」



 ククッと笑いながら元いたキッチンへ踵を返すロー。

 冷蔵庫から全く同じケーキを取り出したローは、今度こそ誰もいないことを確認した上でコラソンの部屋へと向かった。



「コラさん! クリスマスケーキ出来たぞ!」



 大きな扉を開けて部屋の中へ進むと、椅子に腰かけたコラソンが新聞を見ながら煙草を吸っている姿が目に入る。

 ローの姿を確認したコラソンは煙草を消し、新聞を置いて彼を手招きした。

 嬉しそうな表情でコラソンの目の前の椅子に座るロー。

 テーブルの上にケーキを置くと、ローはコラソンを見上げてにっこりと笑った。



「今日は無事に来られたのか?」



 ローが何かを作った時は、必ず兄に足止めを喰らっていることを知っているコラソン。

 そう聞いてやると、ローの笑みが悪い笑みに変わる。



「あァ、だから2つ用意した。あのケーキを食べたドフラミンゴは今頃、酷い目に遭っているだろうさ」



 毎度毎度邪魔をする罰だと笑うローに、コラソンは小さく溜め息を吐いた。

 確かローは、ハロウィンの時はマスタード入りパンプキンパイを配っていたのではなかろうか。

 つい最近は、ハッカ油が丸1本入れられた風呂に入って、暫くの間兄が凍えていたのは記憶に新しい。



「今回はなにをしたんだ?」



 ほんの少し同情しつつ、それでもローと2人きりの時間が過ごせるのは嬉しいコラソンが彼に問う。



「媚薬を盛ってやった」



「び…びや…く?」



「そうだ。それも強力で持続性が強いやつをな」



 何だかとんでもない言葉を聞いた気がする。

 コラソンは切り分けられたケーキにフォークを刺し、甘い匂いを漂わせるケーキを口に運んだ。



「美味い! 美味いぞ、ロー!」



「へへっ、当たり前だろう?」



 スポンジはふわふわとしていて、口に入ると溶けるようだった。

 甘酸っぱいフルーツは、優しい味のカスタードクリームと甘さを控えた生クリームが、口の中で絶妙なハーモニーを奏でる。

 心まで温かくなるようなローの手作りのケーキに、それを半分ほど食べ終えたコラソンは上に乗っていたイチゴを指で摘まんで、彼の口許に持っていった。



「おれはいいよ…。パン嫌いだし」



「パン生地じゃねぇから食えるだろ?」



 コラソンはローの唇にイチゴを押しつけると、それを食べさせてやる。

 続いてカスタードクリームや生クリームを指で掬ってローの口許に持っていくコラソン。

 最初は戸惑っていたローだが、有無を言わせないコラソンの眼差しに、彼の指に舌を這わせてそれを舐めていった。



「なぁ、ロー…」



 椅子から立ち上がったコラソンがローの隣に立つ。

 どうしたのかとローがコラソンを見上げると、ケーキを一口食べた彼が唇を合わせて中身を口移しで食べさせてきた。



「んん…っ!? んぅーっ!!!!」



 別に今更キスで照れるような仲ではないが、強引なコラソンの行動にローは驚いて身を竦ませた。



「ぁ、はぁ…」



 ゴクリと音を立てて飲み込んだケーキは、キスの所為か簡単にローの呼吸を乱していく。



「ロー、お前…」



「なに?」



 自分を見つめるコラソンの目が、熱を持っているのは気の所為だろうか。

 不審に思いながらコラソンを見つめると、ローの耳に信じられない言葉が聞こえた。



「ドフィとおれに渡すケーキ、間違えただろ…」



 ローの鼓動が跳ね上がったのは、告げられた真実に驚いただけではなく、先程食べさせられたケーキの所為でもあるのだろう。















END

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