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□それはダメだロー
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 フッ…と少年の身体から力が抜ける。



「ローーーッ!!」



 ローと呼ばれた少年が地面に倒れる寸前、大きな手が小さな身体を受け止めた。




















「これで何回目だ、ロー」



 大きな部屋の中で大きなピンクと黒の二つの影が、ベッドに横たわる小さな影を見下ろす。

 先程の戦闘で気を失った少年は、この部屋の持ち主である人物を見つめてウルッと瞳を震わせた。



「───ごめんなさい…ドフラミンゴ」



「はぁ…っ、まったく…」



 この目には弱い。

 無意識なのだろうが、つい甘やかしてしまいたくなる。

 ドフラミンゴと呼ばれた人物はずれ落ちそうになったサングラスを指でクイッと上げて、盛大に溜め息を吐いたのだった。



[けがはない?]



 出された紙にローは顔を上げてもう一人の人物を見た。



「うん、大丈夫。ありがとう、コラさん」



「甘やかすな、コラソン」



 ドフラミンゴは隣に座るもう一人の実の弟であるコラソンに告げる。



(…人のこと言えないクセに)



 兄の視線を顔を背けることでかわし、だが内心はコラソンも戦闘の度に毎回倒れるローに困ったように小さく溜め息を吐いた。

 医者の息子というだけあって、元々素質のあったローはファミリーに入ってから医術を学ぶことで更に知識をつけた。

 けれど彼には弱点があったのだ。



「いつになったら血に慣れるんだ?」



「…ごめんなさい」



 ウルウルと先程にも増して瞳を震わせたローの目には、うっすらと涙が浮かびはじめていた。

 それを見たコラソンは彼の頭を優しく撫でる。

 同時に隣の椅子に座る兄から足を蹴られるが、毎度のことなので気にしなかった。

 それよりも問題はローの方だ。

 何故か彼は人間の血に弱いらしく、戦闘の度に敵の血を見ては気絶を繰り返し、そして今日のように部屋へと運ばれるのだ。



「医者としての知識はもちろん、戦闘技術も十分なんだがな」



「───ごめ…なさ…」



「海賊だろう?」



「ぅっ…ふ…」



 ドフラミンゴの言葉に、ついにはローの口から嗚咽が漏れる。

 ローから見えないベッドの下では、泣かせるなというようにコラソンがドフラミンゴの足をきつく蹴り返していた。



「おれ…海賊に…なれない?」



 潤んだ目でコラソンとドフラミンゴを見つめるロー。



((うっ…))



 この目には本当に弱い。

 コラソンがローを抱きしめようとしたが、いち早くそれを察知したドフラミンゴが彼の足を思い切り蹴り上げた。

 ドターンッと派手に後ろに転がるコラソン。



(───クッ!!)



「え…、なに?」



「気にするな、いつものドジだ」



 ビックリしてコラソンを見ようとしたローだが、伸びてきたドフラミンゴの腕に抱かれてその身体を胸に収められた為、それは叶わない。

 椅子ごと後ろに転がったコラソンは元の位置に戻り、ローを抱きしめたドフラミンゴを睨みつけた。

 勝ち誇った兄の顔が憎い。



「海賊…なれなかったら…」



 ドフラミンゴの胸に抱かれたローが小さく声を出す。

 震える小さな声を聞き逃すまいと、二人は静かにローの言葉の続きを待った。



「なれなかったら…、もうコラさんと一緒にいられない…?」



「───そこはおれだろ、ロー」



(───っし!)



 自分の腕の中にいるというのに、ローから紡ぎ出された言葉はコラソンという声。

 勝ち誇った弟の顔が憎い。

 抱きしめる腕に振動が伝わらないように静かに、けれど重くドフラミンゴはコラソンの足を踏みつけた。

 ベッドの下で静かに行われる兄弟の攻防戦。

 ドフラミンゴの腕の中から抜け出したローは、それに気づかないまま不安そうにコラソンを見つめた。
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