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□気づいているだろうか
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冷たいその眼は誰かを思い出させる。
鳥肌の立つような眼差し。
全てを憎み、全てを壊したいと。
信じられる者は誰一人としておらず、自分だけが全てなのだと。
その眼が物語っている。
可哀相なヤツ───。
そう思ったんだ。
触れれば壊れてしまいそうで、極力近づかないように、近づけさせないようにした。
何より、面倒なことはゴメンだった。
それなのに、気がつけばいつも視界にはお前がいる。
それは同時におれ自身が、お前を意識して見ているのだと思い知らされた。
刺された胸の傷など既に消えている。
けれどこの胸に残る微かな痛みにも似た疼き。
それが何なのか今のおれには解らない。
解ることといえば、その冷たい眼に捕らわれたのだと、そう思った。
ガキのクセに何て眼ェしてやがんだ。
向けられる視線は誰にでも同じように向けられる冷たいものなのに、おれを見るその眼はどこか違って見えてしまうのは何故だろう。
お前のことが気になってしまうのは何故だろう。
昔の記憶にお前を見たからなのだろうか。
いや、違う。
コイツはアイツとは違う。
思考が纏まらない。
振り払ってしまえば楽なのに、それが出来ないのは目の前にコイツが現れたから。
「………」
「………」
ここに来た時の頃を思い出せば、随分と筋肉がついたものだ。
稽古の度に付けられる傷も、いつの間にか減ってきている。
それはコイツがそれだけ成長したということなのだろう。
見つめる視線に、サングラス越しにそれを合わせてやる。
瞬間、チクリとした痛みが胸を襲う。
「───コラソン…」
まだ変声期を迎えない少し高い子供の声。
おれを呼ぶ声に、表情を変えないまま言葉の続きを促す。
「なぁ…、何で言わないんだ?」
それはおれを刺した時のことだろうか。
今更何を…と思うが、真剣に見つめる視線に声が出ない。
まぁ出さないのだが。
だから尚更コイツはおれを見つめるのだろう。
声の変わりに表情での答えを求めている。
尤も、おれの表情が変わることはないだろうが。
「何で…」
一度伏せられた瞳が真っ直ぐにおれを捕らえる。
「ずっとおれを見ているんだ?」
ドキンと、鼓動が跳ね上がった。
視線が外せない。
あぁ、だからなのか。
気になってしまうのは。
アイツが求めなかったものをコイツは求めている。
ゆっくり手を伸ばすと、隠れてしまうほど小さな頬に初めて触れた。
「な…っンだよ…」
殴られるとでも思ったのだろう。
反射的に固くした身体を、その頬を撫でるように優しく指を滑らせた。
見つめる眼が僅かに揺れる。
逃げることをしないのをいいことに、おれは何度か柔らかいその頬を撫でていた。
「っ…、笑うな!」
は?
指摘に思わず浮かべていた笑みを瞬時に消した。
いつ笑っていたのだろう。
表情を変えたおれをじっと見つめる二つの眼。
頬に添えた手を目尻に移す。
微かに細められたそれに指を這わせると、今度は完全に目が閉じられた。
黙って目を閉じていれば、そこらにいるガキと何ら変わりはねぇのにな。
コイツの眼は冷たくて鋭すぎる。
取り巻く環境がそうさせたのもあるのだろうが。
いつの間にか開いた眼が、その瞳がおれを映す。
「なぁ、コラソン…。おれ…」
親指は小さな唇を撫で上げ、その音を奪った。
気づいているだろうか
お前の眼は冷たいだけじゃなく、まだ温もりを求めているということに
END