05/24の日記

23:19
フラッド。
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アンドリュー・ヴァクス著
佐々田雅子訳
(ハヤカワ文庫)

『フラッド』

アウトロー探偵バークシリーズ第一作。

 ……アウトロー探偵?

  そう、アウトロー探偵。

それは、日々のたつきのためには
けっこうな勢いで犯罪に近いことを、
いや、つかまってないだけで
それは犯罪です、ということをなさる、

限りなく黒に近いグレーゾーンにいる探偵。

なもんで、
仲間たちもすっごくグレーで、

自称「預言者」の
 ホームレスぽいおじいちゃん

とか

まったく喋らないけど
 めっちゃ強いアジア人

とか

IQが高すぎて世間と折り合いがつかず
 野犬たちに守られて地下に引きこもってる
  天才技術者

とか、
いちいち変可愛いのですが、

中でも、

しばらーくお休みしていた
この日記を
 はッ!
と思い出したほどキュートな! ↓


【ミシェル。】

ミシェル嬢!!

登場人物紹介欄には
「男娼」
と書かれていますが、

まあ、
ざっくり言やぁそうなんですが、

見た感じも
喋り方も

女のひとだからー。

そのレディ感を見込んで
アウトロー探偵が
「秘書っぽく電話に出る係」
をお願いするくらいの

女の中の女だからー。

「男娼」
って、なんか、ちょっと、
雰囲気違う気が……。
 まあいいや。


その男娼のミシェルちゃん、
バークとの会話が、
いちいちカッコいいんですよ。

お仕事をお願いするときに、
バークが、
(いくら出せばいい?
 みたいな話の流れで)

「あんたの価値に見合うほどは
  出せないんだけどな」

的なことを言うと、
ミシェルちゃんは
たいそうさらっと、

「あら、そんなの最初から
  払えるわけないんだから、
   気にしないでいいのよ」

的なことを答える。

自分の価値を知る女。

それはただプライドが高いとか
そういうことではなくて、

なんつーんですか、
「この自分の唯一無二感」
を、きちんと感じることのできる女、
みたいな、

それはきっといろいろと
苦い経験も越えてきたところで
つちかわれてきたものだという気もして、

かっけーぜ!

と思うわけです。


更に、このミシェルと、
ひきこもりエンジニアのモグラ、
の関係もすごく可愛い。

「性倒錯って何だかわかる?」
と、ミシェルが訊くわけですよ、
ひきこもりのモグラくんに。

(ちょっと訳が古いので、
 この「性倒錯」は
 おそらく「トランスジェンダー」のことで、
 現在だと「性同一性障害」
 と訳される意味合いだと思う。)

「男性の身体の中に
 囚われている女性のことだ」
と、ひきこもりのモグラくんは答える。
辞書的にね。

「それがどういうことかわかる?」
とミシェルが訊く。

ちょっと考えるモグラくん。

「囚われている、ということはわかる」。

これに対して、
あとからミシェルは
「ありがと」って言うんだよ。
「ありがと、モグラ」と!!!

あぁあ、
と、読んでいる人(わたし。)は
思うわけです、
(毎度作者の思うがままだ)

「囚われている、ということは、わかる」

なんて完璧なフレーズだろう。

この、
相手に寄り添わない
乾いた共感の言葉は、

ああ、
そのことについては、
わたしもわかる、かもしれない
 ということを、どうしようもなく
  思い出させてくれる。

ジェンダーとセクシャリティが一致していても、
一般的なIQでひきこもらなくても生きていけてても、

たぶん、
ほとんどの人間が、
ちょっとふりかえるだけでそうなのだと、
思うのだ。

「囚われている、ということは、わかる」

我々は、
自分で選んだわけではない身体と、
自分で望んで育ててきたはずの魂との、

必ずしも
ままならない
垣根の
内側に、

囚われている、のだ、っていうことを、

毎分、毎秒、
本当は知っている。

ただ、
ミシェルやモグラより、
わたしのほうが、
ちょっとだけ、

忘れっぽい。

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