ススキノ☆ジャック・ザ・リパー

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 一人に戻ると、やはり、夜は暗い。そりゃそうだ。暗いから、見えないから、ここで用を足そうと思ったんだ、俺は。
「……怖かった……」
 何だったんだ、ほんと何だったんだろう。っていうか!
「──動くな」
 何なんだろう、現在進行形で。何なんだろうなう。いや呟いている場合ではない。
「今度は何!?」
「動くなと言ってる。死にたいのか」
 首元に、金属の何かがチクリと触れた。あー。刃物だ、これ。違うタイプのヤバい人だ。
「あの……やめてくれません?」
 カチリと音がして、一瞬だけ明るくなる。眩しさに目を細めた俺には、相手の顔をはっきり認識する余裕はないが。
「こりゃまた、あいつの好きそうなカオだぜ」
 かろうじて、今度のお客さんも外国人だということは判別できた。さっきのと違って、黒髪だけど。
「さっきの、人の……知り合い……?」
「まあ、そんなとこ」
 ダン、と、俺の顔スレスレの木の幹に刃物を付きたて、新しいヤバい人が俺を見下ろす。佐藤のときと違って闇は暗いままで、相手の目の奥だけがぼんやりと赤く見える。
「おとなしくしてろよ、坊や」
「……はあ」
「かわいそうに、ちょっとハードな夜になったな」
 ぎゅ、と。
 そういえば相変わらず出しっぱなしでした、の部分を、当然のように握りしめられて、ようやく俺は、やや現実に戻り、更にはやや、パニックにさえ陥る。
「いや、ちょっと、何するん──!」
「じっとしてろと言ってんだろうが」
 刃物男は、空いてるほうの手で俺の前髪をわしづかみにした。
「俺だって好きでやってんじゃねえんだ、手間ァかけさせんじゃねぇよ」
 至近距離から、相手の目の奥の赤がまともに目に入ると。身体がガクンと背後の木に張り付いて、身動きがとれなくなる。
 ああ、そうか、と、回らないアタマで俺は思う。天使の次に現われるのは、きっと。
「それにしても、よくもこう次から次へと見つけてくるもんだな、あいつも」
 きゅきゅきゅ、と、手慣れた仕種で、先ほど天使の口づけが勃起させたモノを、悪魔の指先がしごく。
「や──やめ……」
 刃物をつきつけられた驚きで勢いを失っていたとはいえ、さっきまで天使と男娼のアレなところを聞かされていたその部分は、残念ながら非常に敏感になっていたりで。
「……ん……!」
「お前、ずいぶん簡単に反応するな」
 恥ずかしいし、悔しいのに、首から下はほとんど動かせない。何コレ、催眠術かなんか!?
「きちんとイかせてもらってねぇのか?……そんなはずねぇか、あの変態が」
「な……なんの……はな……ァ、ほんと、やめ──やめて、俺、ヤ、ヤバ……」
 現職警察官が夜道で痴漢に襲われて、ろくな抵抗もできないままイかされちゃいましたでは、情けないにもほどがある。
「──日本語って難しいよな」
「は? ァ、ちょっと、マジで、ヤバい……」
「そのヤバいって、いい意味? 悪い意味?」
 ……もう、ほんとにヤだ、ハンパに日本通の外国人観光客!!
「ぅ……バカ、かよ……! ン……!」
「まあ、でも、どっちでも同じか」
 あっさりと、悪魔は指先の動きを速める。
「──ちょ!」
「どっちにしろ、結局言いたいのは」
「待って……ァア、ほんと、ヤバ、い、って!」
「《イきそう》──って、ことだろ?」
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