【更新中】〈練習帳シリーズ〉
□ 〈幕間〉『開いたゴマの行方。』2
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【伊丹目線/そのころ/伊丹の部屋】
腹立てとったはずやのに、もしかしてなっちゃんと話終わったら、またこっち来るんちゃうかて、カギかけんと待ってしまう。どっちにしろ、あいつもここのカギ持っとんのやから同しやねんけど。ああ、俺、ほんま最近アホになってきとる。
銀河が置いていった上着を、床から拾う。こんなんしといたらシワになってまうな、かけといてやるかな。あいつは着るもんにこだわるくせに、こういうとこだらしないてあかんわ。
持ちあげたはずみに、さかさまになったポケットから、パサリと中のもんが落ちてくる。しもた。なにげなく拾って──動きが止まる。
ドリが、笑とる。
笑とるいうか、はしゃいどる。動物園に行ったときやな、虎の檻の前で、虎のマネのつもりなんか、ガオーってポーズや。ええトシしてなにしてんねん。アホか。
いや、俺、そんなことにムカついとんちゃうわ。──ムカつく?て、なんで?
そうや。俺は本気でムカついとる。ちゃう。ビビっとる。
──お前を裏切るよォなことせぇへん。て、ドリは言うた。
けど、銀河が。ひょっとして、銀河のほうが、俺よりドリがええて思うんやったら? ドリの方が優しいし、愛想もええし、ヘンなヤキモチも、やかへんやろし。
ヤキモチ。
そうや、これはヤキモチや。下らんて分かってる。けど、どないせぇいうんや。どうやったら大人のカオなんかできるんや。
──銀河。お前、なんでドリの写真持ち歩いとるん?
俺には絶対真似でけへんような、楽しそうな、くつろいだカオで写真にうつるドリを。お前も、ええなて、思うん?
俺は、写真の中のドリの笑顔を見下ろす。こいつをうらやましいて思うのは、だいぶん前に卒業したつもりやったのに。