【更新中】〈練習帳シリーズ〉
□ 〈幕間〉『開いたゴマの行方。』2
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【銀河目線/つづき/菅原家】
「うわ、どないしたん。あっという間に帰ってきたなァ」
台所のテーブルに、辞書やら並べて仕事しとったナツが、びっくりガオで振り返る。
「伊丹さんとケンカでもしたん? コーヒー飲む?」
同時に二つの質問を、まったく同じテンションでしよる。
「ケンカはしてへん。コーヒーは飲む」
コーヒーメイカーに落ちとったコーヒーを、まず自分のほうに入れてから、余りをオレのマグに入れてよこす。一緒に暮らすんに、ほんま気ィつかわんでええ女や。
「イタさんとこにな、ドリさんから電話かかってきてな。ひなこちゃんがおらへんよォになってしまってんけど、連絡つかへんで心配やから、電話してみてくれへんかて。そんで、オレが電話したら、ひなこちゃんは家に帰ってきとってんけどな、泣いてるみたいやって」
「おらへんよォなったて、つまりはそれまでは一緒にいてたてことかいな」
ナツは、ひゅー、て口笛を吹いた。
「夜に口笛吹いたら蛇が来るで」
「くちびるオバケやろ」
……なんやそれ。
「夜口笛吹いたら来るんは、くちびるオバケやて。うちではそう言われとったもん」
「なんやそのわけの分からんもん。想像できひんやろ。怖ないやろ」
「アホか。うち、子供の頃はくちびるオバケが怖いて夜も寝られんやったわ」
なんやその価値観。オレは、アタマ抱える。
「こういうこと言われて育つんやもんな。そらあんなおもろい息子になるわな」